北海道での青春

紀行文を載せる予定

食物からの時代考

 毎年、大晦日に出刃包丁を研ぎ、新巻鮭を料理する。自己流とは言え、切り身のこしらえ方も、要を得てきた。サケ科の魚特有の脂鰭(あぶらびれ)を『奇形魚だ』と大騒ぎしたのは、懐かしい思い出となった。

 我が家では、芯に鮭の切り身を入れ、干瓢で巻いた昆布巻きが、おせち料理の定番で、催促されて取りかかるのも、いつもの光景だ。取り留めもない作業をしている内に、昆布巻きも煮え上がり、年取りを迎える。

 今年は、いつもの料理に少し変化があった。お刺身の量が、半分。値段は同じだと言うが、高級食材となった。我が家も、量より質の違いがわかる世代になった。 

 さて、新年を迎え、TVニュースで垣間見た都会の光景は、異様だった。

 日比谷公園NPO法人年越し派遣村なるテント村を開設した。

 米国の住宅低金利貸付(サブプライム・ローン)問題に端を発し、原油価格の急騰や企業倒産を伴った経済不況が世界中に広がり、日本国内でも、会社倒産や生産調整で失業者が増えた。

 とりわけ、短期契約派遣社員は、人員整理の対象となり、職業と共に、住んでいた社員寮も失って、街にあふれ出た。再就職もままならず、蓄えも底を尽き、路上生活者となった。そんな人々の支援をしようと、派遣村が立ち上がったのだ。

 異様に感じたいくつかの疑問は、すぐに解けた。ボランティア・スタッフが多いのは、難民キャンプとは違う。垢にまみれたアル中患者のような悲愴感もなく、こぎれいな身繕いだ。ただ、地震等で被災した人々のような家族関係が見えてこない。敢えて自分がとは思いたくないが、雇用の機会と蓄えがなくなれば、誰もが陥る可能性がある。

 CMが入り、チャンネルを変えると、破廉恥な大食い大会が報じられていた。気の毒にと思いながら、炬燵で支援活動を眺めていることへの後ろめたさが少し薄れてきて、不遜にも思った。
 年越し蕎麦をすすっているが、あの汁を全部飲み干すだろうか。ご馳走の後、イベントで食べるような年越し蕎麦が、支援食にふさわしいだろうか。人の好みにもよるだろうが、不覚にも二日酔いで丸二日間、何も食べられなかった時の、私の体験では、「白米の梅茶漬け」がいい。
 何はともあれ、日本の食卓は世界一多彩な食品を並べている。飽食の時代と言われて久しい。最近は、食品偽装や、脈絡のない健康食品ブームも加わった。生きる基本の食事に、もう少し信念が欲しいと、私は常々思う。六年生の皆さんは、こんな世相の丑年に卒業する。懐かしい友のことと共に、そんな時代のことも思い出してください。

 

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不思議な「あぶらびれ」

 

【忙中閑話】  脂 鰭

 図は、スズキ科の魚のものだが、サケ・マス科の魚には、第二背鰭の位置に、肉質の塊のようなものが付いている。それが、鰭(ひれ)のようには見えなくて、私がそれを発見した時、奇形部位ではないかと大騒ぎをした経緯がある。

 インターネットで調べて、それが「あぶらびれ」と呼ばれるものだと知った。何の目的なのか不明だが、実験研究では、流れを関知して尾びれの無駄な動きを少なくするのではないかと言われているようだ。整流板のような働きというより、センサーと考えた方が良さそうである。

 丸ごとの魚は、鯉や鮒、それに秋刀魚・鰯・鯛・鯖・鱈ぐらいで、あとは切り身しか見たことがなかったので、奇妙な鰭が、へんな所に付いているので疑問に思った。そう言えば、同じサケ・マス科のニジマスイワナにも小さいがあったなあ。 

 

【編集後記】

 この文章を書き、調べた時、インターネット画像で、「サケ科の脂鰭」があったが、今は見つからなかったので、スズキの図を載せた。