北海道での青春

紀行文を載せる予定

微化石から人類へ(脊椎動物への道)

6.カンブリア紀の爆発的進化と脊椎動物への道

 南オーストラリア州のトレンズ湖(L.Torrens・州都アデレードの北方の塩湖)付近の、今から6億年前の地層から、地球史上初の多細胞生物の化石が見つかりました。発見された地名からエディアカラ動物群(Ediacara fauna)と呼ばれます。

 薄い膜で覆われた生物は、海中を浮遊したり海底にへばりついたりして、ゆっくり動いていたと考えられますが、肉眼レベルまで大きくなっていました。形が残っていたのは、偶然にも、生息域全体が、大規模な土砂崩れで埋まったからだと考えられます。

 この生物群と似た化石は、カナダのニューファンドランド島(Newfoundland)やロシアの白海沿岸(コラ半島の南の湾)など、20カ所以上で発見されています。しかし、原生代末期に繁栄した生物も、5億4200万年前(5.45億年)までに絶滅してしまいました。

 原生代とカンブリア紀の間(V-C境界)にも、生物が大量絶滅するような事件があったようです。

 

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エディアカラ動物群の想像図

 ロッキー山脈のバージェス山(カナダ・ブリテッシュコロンビア州、東隣のアルバータ州カルガリーの北西)の5億3000万年前・カンブリア紀中期の頁岩層から、奇妙な化石が見つかりました。山の名称から、バージェス動物群(Burgess fauna)と呼ばれます。

 例えば【オパビニア・Opabinia】:ゾウの鼻のようなものの先にカニの「はさみ」のようなものがあり、胴体に対をなす鰭(ひれ)、エビの尻尾のようなものが付き、眼のようなものが5つある節足動物に似た生物。

 米国の古生物学者チャールズ・ウォルコットの発見と記載(1909・1912年)から60年後、学会で復元想像図が発表された時、参加していた研究者たちの大爆笑で、会が一時中断されたという逸話が残るほどです。主旨は、現生する生物とは、完全に異なる絶滅種でした。

 

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オパビニアの想像図

 


 例えば【アノマロカリス・Anomalocaris】: 
 NHK番組「生命40億年の旅」の中で、英国の古生物学者ハリー・ウィッチントン博士らが、謎に満ちたアノマロカリスの正体を明らかにした研究の裏話を視聴して、私は感動してしまいました。

 第一発見者以来、多くの研究者が化石発掘に関わり、①丈夫な歯のある口のようなもの(クラゲ?)、②多産されるエビの触手のような部位(大きな生物らしい?)、③胴体に対をなす鰭(ひれ)(ナマコ?、現生種にない歩行手段か?)・・全体化石の発見がなかったので、それぞれ別な生物として記載されていた。

 ところが、三者の関係を連想させる証拠の発掘から、①+②+③=ひとつの生物体であると解明された。【Anomalocaris canadensis】である。

 

 

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バージェス動物群 / アノマロカリス

 さらに興味深かったことは、①の口の外と奥で受ける歯の構造が発明された工業製品のようで、精巧な構造だったことだ。でも、こんな口と歯を備えた現生種はいない。

 『カンブリア紀の爆発的進化は、生物が様々な生き方ができることを試す実験だったのかもしれない。進化は、合理性だけでは説明できない何か(運・偶然)が、あるのかもしれない』というコメントが、耳に残っている。
 とは言うものの、エデイアカラ動物群と比べると、固い殻や棘(とげ)で体を防御する仕組みができたり、素早い動きで競争力が付いたりして、より生き残れるように着実に進化してきていました。

 

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アノマロカリスカナデンシスの全体化石

 

 

 【下図】は、バージェス動物群の代表的な生物ですが、【ピカイア・Pikaia】に注目です。背骨をもつ生物の原型となった脊索(せきさく)という神経系を備え、現生種のナメクジウオに似た生物です。固い殻もなく、弱弱しい感じですが、アノマロカリスから、うまく逃げて生き残ったのでしょう。脊椎(せきつい)動物へとつながる一時期の姿です。

 ただし、誤解のないように強調しますが、アノマロカリスは、5.4億年前までで絶滅しました。また、他の生物も何度となく起きた大事件で、その度に絶滅します。だから、似た性質をもった生物(グループ)が生き残るという意味です。

 

 

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ヒトに一番近いのは?


  【 忙中閑話 】  大型昆虫が誕生しなかった理由?

 セキツイ動物(代表・恐竜類)と無セキツイ動物(代表・昆虫類)の違いは、脳や神経系を保護する背骨の有無です。さらには内骨格と外骨格の違いとも言えます。

 大規模サーカス施設を建てる工事に例えると、丈夫な支柱とテント布にするか、それとも変形しない丈夫な素材で覆ってしまうかの違いです。後者の工法では、大きさが限定され、大きくなれば不経済です。動物の場合なら、身体を支える重い殻で動けなくなります。それ故に、身体の大型化に恐竜類は成功しましたが、昆虫類は、ある程度の大きさ止まりでした。もし、海の中で進化したら大型昆虫の可能性もあったかもしれない。

 

 【編集後記】

 野菜作りをしていると、植物の弱々しさを感じることがある反面、粘り強い生命力・復元力に驚かせられます。

 数年前から、山の畑の他に、水田地帯に10aを畑にして主に夏野菜を栽培しています。周囲が水田なので害虫が少なく、水遣りも便利です。しかし、強風の中、風防対策をしても、野菜はなかなか育ちません。土手の雑草(失礼・・)やイネは平気ですが、野菜はか弱いものです。

 ところが、先日、トウモロコシの間引きをした後、苗を処分するのがためらわれたので『だめもと』というつもりで、畑の隅に植え替えました。水遣りを数日間しましたが、枯れてきたので諦めていたら、8割ほどの割合で根付き、強風にも耐えています。

 全体的には、枯れたと見える何割かの細胞とは別に、粘り強く生き残る細胞が、次第に個体を復興させていく姿に感動しました。