北海道での青春

紀行文を載せる予定

微化石から人類へ(海から陸への進化)

7.海から上陸して、緑の河畔を歩く生物が現れた

 ノザーンテリトリー州(Northern Territory)のアリススプリング
(Alice Springs・豪州大陸のほぼ中央部)近郊の、オルドビス紀の後期(4.6億年前)の地層から魚の祖先の化石が発見された。【アランダスピス・Arandaspis】である。吸盤状の口で顎(あご)が無く、無顎(がく)類に分類される原始的な魚で、鰭(ひれ)がない。あまり泳げず土中から餌をとる。オウムガイ(アンモナイトの仲間)に食べられていた。初期の魚類は弱い立場で、海は生存にとって厳しい環境だった。

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アランダスピスの想像図

 カンブリア紀末(5億年前頃)、小大陸の衝突により山脈ができた。山脈が大気の流れを遮ることによって、雲が生まれ大量の雨をもたらし、降り注ぐ雨は大地を浸食して、大河ができた。河口付近のデルタ地帯は、富栄養の水域も広がって、この外敵のいない安全な環境に進出できれば、好都合でした。

 海での生き残りをかけて進化しつつあった魚類ですが、河川をめざしたグループもいました。【プテラスピス・Pteraspis】です。古生代デボン紀前期の地層から発見された無顎類に分類される淡水魚の祖先です。
 海と河川(湖)の違いは塩分濃度差です。鰓(エラ)呼吸や食物を通して体内に入ってしまう塩分を、「腎臓」を発達させて血液の中から取り除き、体外に排出できるように進化しました。

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プテラスピスの想像図

 草食性の魚類が河川に進出すると、それを食べる肉食性の淡水魚も誕生しました。

デボン紀中期の地層から発見された【ケイロレピス・Chirolepis】です。化石の証拠から発達した鰭(ひれ)・歯と顎(あご)、背骨(脊椎)を持っていたと考えられます。
 この内、生化学の観点からも、背骨の存在は重要だと言います。海水にはCaを始めとして様々なミネラル成分が溶けていますが、淡水には、その1/10~1/100しか含まれていない上に、環境変化によって不安定です。心臓を動かす心筋に不可欠なCaは、不足した時には背骨のCaから代用できる仕組みが進化しました。ミネラルの貯蔵庫が、背骨なのです。

 

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ケイロレピスの想像図

 魚類が上陸するのに残された障壁は、肺呼吸と四肢歩行です。どちらの克服が先だったのかは、興味深い話題です。

 グリーンランド(Greenland)のデボン紀後期の地層から初期四肢動物と思われる【アカントステガ・Acanthostega】の保存状態の良い化石が発見され、結論が出ました。

 浅瀬で水中生活をしている魚が、肺に相当する部位でも呼吸をし、四肢は水面に顔を出す時に使われたようです。スカンジナビア半島の化石からは、浅瀬の水草の茂みをかき分けて進む鰭(ひれ)の特徴から、オオサンショウウオ(両生類)に似た生活の様子が明らかになりました。

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デボン紀の陸上植物(想像図)

 そして、グリーンランドデボン紀末(3.6億年前)の地層から見つかった【イクチオステガ・Ichthyostega】は、X-ray解析から陸上歩行が十分可能だと認められました。

 重力から内臓を守る肋骨と、丈夫な鰭が手足となっていました。大型のシダ植物やシダ種子類(種子シダ植物)の繁茂する林から水辺に至る陸上の河畔を歩いたことでしょう。

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イクチオステガの想像図

 

 

  【編集後記】    菊日和 三億年の 肺呼吸

 平成29年、7月、8月と月をまたいだ入院生活があって、9月の句会には久し振りの参加であった。退院後も検査と治療は続いていたが、経過は比較的順調なので、俳句の創作は、新鮮に感じられた。9月は「菊」をテーマにしようと思うと、三句作った。

 ① 菊日和 三億年の 肺呼吸
 ② 野菊咲く 道踏み分けて 亡父(ちち)訪ぬ
 ③ 蒼天や 国旗はためき 菊薫る


 【俳句-①】は、快晴の空の下、咲き誇る菊の香を吸い込もうと深呼吸をした時の感慨を、俳句にした。私は奇しくも亡父と同じ年齢で、肺癌が発見された。摘出手術ができる限界段階だった。術後の経過に不安は残るが、生きていられることに感謝である。
 デボン紀末(約3億6000万年前)に、両生類より少し進化し、後の爬虫類へと繋がる「イクチオステガ」が水域から陸上に上がってきた。そして本格的な肺呼吸をした。
 私も深呼吸をすると、心臓から胸の辺が痛い。肺の存在と、生物進化(肺呼吸3億年)の歴史を意識しながら、菊の香を楽しんだ。

 あれから、3年目の夏を迎えようとしている。大変元気に農作業にも取り組んでいる。今日も、畑へ夏野菜を収穫にいきます。