北海道での青春

紀行文を載せる予定

正体を知る三題(後半)

① 山路暮れ ほろろ打つ怪 雉子と知り

② 夫婦(ふたり)して すまして写る 薔薇皇女(ばら・こうじょ)

③ 鎌音に 滑り出ず蛇 ヤマカガシ(赤楝蛇)

 

 【俳句-③】は、片貝川土手の草刈りをしていたら、蛇が斜面を滑るようにして逃げていった時の驚きを詠んだ。

 体表の模様から、蛇の正体は「ヤマカガシ」であったと思う。この蛇には、いくつかの思い出があり、そのエピソードの為に、もう1ページを設けることにした。

 

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赤 楝 蛇(ヤマカガシ)

 

 「ヤマカガシ」と言うと、私は、【写真】のように、オレンジ色と黒色の斑模様の蛇だと思っていた。体表の模様は地域によって違うようだが、佐久地方では、この模様である。昨今では、目撃する蛇の総数も減っていて、特に、ヤマカガシは稀少である。

 子供の頃、蛇を見つけると、恐いにも関わらず、棒で突っつき追い回したものだ。そして、寝てから夢に現れて、泣き出したこともあった。

 最近は、草刈り作業も鎌ではなく、動力の草刈り械に替わったので、恐怖と驚きは半減している。知らず、草刈り機の刃で、蛇の胴体を切ってしまった時は、子供の頃の夢の恐怖体験を彷彿した。

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 さて、強烈な印象のひとつは、「ファイティング・ポーズ」を目撃したことだ。

 私が勤務していたある中学校の清掃時間中に、理科教室前で庭清掃していた生徒が、『見たこともない変な蛇がいる』と、私を呼びにきて、現場に急行した。

 その蛇は、私の知るコブラの姿だった。鎌首を持ち上げ、威嚇音を立てていた。跳びかかりそうな勢いである。好奇心と共に、私は明らかに恐怖を感じていた。『ヤマカガシも毒蛇である』という情報が流布され始めた頃なので、生徒を遠ざけて、しばらく様子を観察していた。その後、逃がした。

 後で調べてみると、ヤマカガシの「威嚇・攻撃態勢」だということがわかり、納得した。(生徒が、箒の先でかまっていたようだ。)

 

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 もうひとつは、垂直なコンクリート壁面を登っていく時の、蛇の骨格の動きが印象的であったことだ。

 夕方近くになり、日直当番で校舎を見回っていた同僚の女性教諭が、私の理科研究室に飛び込んできた。壁に蛇がいて、先に進めないというSOSである。一緒に付いて行った。

 ヤマカガシが、壁面にある小さな溝に沿って登ろうとしていた。落下しないように、背骨のひとつずつの筋肉を駆使して、溝部分ではクランク状態の姿でいた。骨格はひとつずつの筋肉の収縮で波打っていた。蛇は、筋肉のひと区分ずつを使い、危険な岩盤の「クライミング」のように、登攀しようとしていた。その日の午後、用務員さんが草刈りをしたので、隠れ場所を求めて、移動中だったのかも知れない。

 

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 みっつ目は、理科研究室に、ヤマカガシが届けられた。課外授業で生徒と外出したAETが、持ち込んできた。

 餌のカエルなどを蛇の水槽に入れたが、まったく食べない。爬虫類は絶食が得意なようで、ストレス死した。

 死んだ蛇を骨格標本にする為に、水酸化ナトリウム水溶液に漬けておいたら、肉片が溶けて、骨格の方がバラバラになってしまった。体型を復元することができなくなってしまい、埋葬することにした。
 実は、この3つのエピソードは、全てM中学校のことである。

 

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 最後に、K中学校のことである。

 蛇を愛好・飼育(家族が蛇好きのようだ)している生徒の提案で、学級ペットとして蛇を飼うことになったクラスがあった。私は、その学級の担当でなかったし、教室での授業もなかったが、飼育水槽から蛇が授業中に逃げ出して大騒ぎする事件が、時々起きた。ある女性教諭の猛烈な抗議で、学級ペットは引き揚げられることになって、結局、大騒ぎは治まった。

 私は、1年生の理科で、蛇を飼育している生徒から「蛇の卵」を借りて、授業をすることができた。

 「爬虫類は殻のある卵で殖えます」と、生徒には指導していたが、実物(蛇の卵)を見たのは初めてだった。蚕(カイコ)の繭(まゆ)を薄くした感じであり、明らかに鳥類の卵の殻とは違っていた。貴重な体験だった。

 

【編集後記】

  蛇の嫌いな人は、多いようである。私の母の雷嫌いと、家内の蛇嫌いは、私の感覚からすると、異常とも思えるほどである。

 出典がどこだか知らないが、仏教関係の本で、『水を飲み牛はこれを乳とするが、蛇はこれを毒とす』という文章を見たことがある。蛇は、宗教界でも悪者にされている。詳しくは知らないが、キリスト教でも似たような話題がある。

 一方、コロナ禍で、良く話題に挙がるようになったWHO(国際保健機構)のシンボルマークは、「世界地図をオリーブの葉が取り巻く国際連合旗の中心に、医療の象徴であるアスクレピオスの杖の巻き付いた)をあしらったもの」のようであり、蛇は医療の神様なのかもしれない。日本の伝説や民話には「白蛇」も出てきて、必ずしも恐ろしいだけの対象でもない。

 生物的に言うと、体をくねらせて前進または斜め移動するようになったのは、四つ足が退化したからである。普通、左右対になっている胚は、片方だけとなり、身体はスリムになっている。今から1億4500万年前~1億年前(白亜紀前期)に爬虫類の中の1グループが蛇となったと言われている。

 そんな蛇だが、正直、私も毛嫌いするほどではないが、あまり好きではない。

 いつぞや、沖縄旅行に行った時、マングース(哺乳類)とハブ(爬虫類)の戦う観光用ショーを見た後、大蛇のニシキヘビのコーナーへ行ったことがある。係員の方が、観光客の両方の肩と首方に、ニシキヘビを乗せてくれる。それを相方が、記念撮影していた。

 まだ、二十歳代の女性が、『ひんやりとして気持ちいい』などと豪語して、男性のカメラに笑顔で対応していた。蛇嫌いな私の家内が、『あなたもやってみたら?』と横でつぶやいたが、私は、遠慮することにした。

 沖縄が日本に返還されたて数年たった頃で、道路標識に『車は右側通行です』などと、本土ではわかりきったことが注意書きされていた頃の話だ。大昔になるなあ。