北海道での青春

紀行文を載せる予定

冬晴れの青~藍色の空(師走の句)

① 香より 柚子湯は孫と 潜水艦

② 熱の夜は 葛湯(くずゆ)偲びて ポカリ飲む

③ 群青の 空にはにかむ 冬の月

 

 句会の後の忘年会を兼ねた昼食会で、Mさんの「手打ち蕎麦」をいただいた。M氏は、自分で蕎麦を育て収穫・脱穀し、蕎麦を打つ。趣味が高じて蕎麦打ちの段位を取得した勉強家で、プロ顔負けの腕前である。会員らと同郷同級の誼で、新蕎麦粉で調理していただいた。誠に感謝感激の極みです。

 今月は、師走の出来事や冬晴れの佐久の良さを俳句にしてみた。

 

 【俳句-①】は、冬至の日の「柚子湯」に孫と一緒に入ったら、伝統的な情趣を楽しむことより、柚子を湯船に沈めて遊ぶ、潜水艦ごっこになったことを詠んだ。

 柚子の産地では、たくさん入れるだろうが、我が家では一晩で一個きりである。独特の香と表皮の油成分で、お肌に優しく熟睡効果もあるようだ。ただ高価で食べてもおいしい柚子の実は、贅沢品である。柚子の香や風情を十分に楽しみたいが、孫の玩具にされてしまった。

 冬至の夕食には、コンニャク料理とカボチャの煮物も付きものである。コンニャクの産地が隣の群馬県下仁田地方であることも影響してか、「お腹の中をきれいにしてくれる」と、冬至南瓜と共に、佐久地方の昔からの食習慣である。子供の頃は、カボチャ嫌いであったが、昨今は、自分で種を蒔いて育てているせいか、愛着もあり健康の為にも良いと、いただいている。

 

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柚子の実

 

 【俳句-②】は、発熱した晩、経口補水液とゼリーを飲んで早寝した床の中で、『そう言えば、子供の頃は、母や祖母が作ってくれた葛湯(くずゆ)を、スプーンの上で、吹いて冷ましながら食べたなあ』等と思い出していた様を詠んだ。

 「ポカリ」とは、大塚製薬の商標・ポカリスェット(ペットボトル入り)のことであるが、同社や他社の似た飲料より知名度が高いので、経口補水液と断らなくても内容はわかるだろうと、使わせてもらった。
 無理をすれば今でも葛湯は作ることができると思うが、それしか無かった時代に、葛粉に熱湯を注ぎ、砂糖を載せてかき混ぜる時の動作や、それを息で吹いて冷ます時の家族の光景が、懐かしく思い浮かんだ。

 

 

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葛の花

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葛の実

 

 【俳句-③】は、冬晴れの南寄りの空に上弦の月が、うっすらと白く見えていた様を、「はにかんでいる」と表現してみた。

 安定した冬型の気圧配置になると、快晴の日が多い佐久地方では、青色というより紺碧~藍色に近い群青の空になる。季節風が脊梁山脈を越える時、雪を降らせて、きれいにした冷気は、太陽光に偏光フィルターをかけて、空の色を加工しているかのようである。
 その中に浮かぶ淡い白色の月は、あまりに脆弱で儚く、はにかんでいるように感じられた。同じ昼間見る月でも、夏の日の快晴の朝、下弦の白い月が南東の青空に浮かんでいると、爽やかで清々しく感じられるのとは、対照的である。

 ところがである。この「冬の月」は、季節の中でも南中高度が最も高くなり、しかも、一気に闇夜を迎えるので、冬空に煌々と照り輝く。たとえ満月に近い月齢の月でなくても、輝きは、凜とした麗人を見ているような印象をもつ。

 昼間見た、人前に出るのを恥ずかしがっている乙女のような「はにかんだ」月が、夜には、男性を魅了してやまない高嶺の花、「気高い雰囲気」の女性に変身しているようなものである。

 わずか半日ほどの時間経過の中で、まさに同じ月が自然条件の変化に伴なって、変身していく現象が、おもしろいなあと感じていました。

 

【編集後記】

  俳句に限らず、短歌や小説・ドラマなどに、月が出てくると、ついつい科学的に分析して見てしまう。月齢は? 見ている時間と形は? などと、そして描写に矛盾があると、ついつい指摘してしまいがちだ。

 例えば、若いカップルが「三日月」を見ながらいるのは、微笑ましいが、「二十六日月」を見ているのは、二人は朝帰りかなどと勘ぐってしまう類である。

 ところで、俳句の世界では、月と言えば、秋の季語となっているので、他の季節の月を俳句にする時には、それを区別する必要がある。

 月の大きさ(満ち欠け)も、それぞれに趣があり、どの季節、夜だけでなく、昼間見える月にも、味わいがある。特に、何かの事件や出来事の時に見た月と、月の大きさが関連すると、いつまでも印象に残ることがある。

 随分、昔のことになるが、山奥にあるM少年自然の家勤務の時、大学生が息せき切って、玄関に飛び込んできたことがあった。

 自分たちの管理している山小屋の薪を、借りた軽トラックに載せて運んでいたが、坂道で、急ブレーキをかけた時、荷台の薪に乗っていた学生が振り落とされたという急報を伝えにきた。私は、急いで車で現場に駆けつけた。

 所を出る時に、救急車の手配をしてあり、時間を稼ぐ為に、「紫燈」を回転させて救急車の来る麓に向かった。(頭を打ったが意識はあり、出血もあまり無いというので)

 救急車と道路で出逢い、隊員の方にけがをした学生さんを引き渡した。帰り道、西の山の端近く、三日月より細い、二日月が見え、心細く感じたのを今でも覚えている。