北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語(鍵掛沢断層群)

   大野沢調査から断層群が見えてきた

 

 鍵掛沢断層の通過位置を、抜井川中流部で推定できました。そこで、同じ平成5年に、断層が北に延びると思われる大野沢の調査に取りかかりました。大野沢の下流部、第4沢、第6沢、P1173東沢です。そして、平成6年には第7沢、大野沢中流部の調査を行ないました。その結果、断層群であることが、【下図】のようにわかりました。

f:id:otontoro:20210209103513j:plain

断層を推定し、究明してきた経過

 

(1) 「大野沢断層」が、大野沢支流・第6沢の東側を通る

 

 大野沢は、古谷ダムのやや下流で抜井川に合流します。大野沢の右岸には、いくつかの支流があり、これを下流側から数えて、『大野沢支流・第n沢』と呼ぶことにしました。
第6沢は、標高1050m付近で大野沢本流と合流する、6番目の沢のことです。
 この第6沢は、まるで「礫岩の展示場」のようです。礫岩を含む全て粗粒岩から成り、しかも、水平距離で300mほどの間に、3種類の礫岩層があるという興味深い沢です。
 沢の標高1080m付近の右岸(【図-①】)に、礫を含む粗粒砂岩層があり、その上流にも同質の礫岩層があります。この礫岩層は、フィールド・ネームで「ゴマシオ」と名付けたもので、白色チャート礫(主)の中に、黒色チャートや灰色砂岩・粘板岩の礫が含まれ、「おにぎりに胡麻塩がかかった感じ」に見えます。それが、命名の謂われです。角礫が多い割には、粒度が統一されていて、泥や砂は少なく、きれいな印象を受けます

 

f:id:otontoro:20210209104130j:plain

大野沢支流第5・6・7沢のルートマップ

 第6沢の標高1100m付近(【図-②】)で、閃緑岩の大礫(直径15cm以上)を含む礫岩層が見られました。閃緑岩の大礫が入る礫岩層は、全域調査の結果、瀬林層と三山層の両方に含まれることがわかりましたが、岩相では区別できません。周囲の地質構造から判断して、この礫岩層は、瀬林層上部のものであると考えています。(後述する「大野沢林道ルートマップ」の情報からの判断によります。)

 このわずか数10m上流の右岸(【図-③】)に、再び【図-①】地点に類似した礫岩層露頭が3箇所あります。礫の分級は良く、最大でも直径1~3cmの礫岩です。 

 二股の手前、標高1120m付近(【図-④】)で、チャートの大礫(直径10cm)を含む内山層の基底礫岩層が見られます。内山層基底礫岩層は、分級が悪いのに、どの大きさの礫も角がとれているという特徴があります。
 また、大野沢林道と第6沢の交差する入口近く、標高1080m付近の左岸には、断層粘土が認められ、青味を帯びた灰色中粒砂岩と黒色頁岩の互層が乱れています。そこで、この互層部分を通過し、閃緑岩礫を含む礫岩層の東側を抜ける大野沢断層を推定しました。

 

(2) 鍵掛沢断層は大野沢支流・第7沢の東側を抜けている 

 大野沢支流・第7沢は、第6沢の200mほど東側にある沢のことです。
 大野沢林道と交差する沢の入口(標高1095m付近)から、林道に沿って露頭があります。東側へ、礫岩層(3m)、黒色頁岩と黒色細粒砂岩の互層(30m)、崩壊部分(1m)、泥優勢な砂泥互層(7m)、コンクリート製防護壁と続きます。(【図-⑤】)

 コンクリートで覆われる前は、泥優勢な砂泥互層が見られ、ここからアンモナイト化石が見つかりました。(平成3年・小林正昇資料)ちなみに、旧南佐久郡誌でも、この付近の大野沢本流左岸で、アンモナイト化石の産出を報告しています。

 林道との交差地点から70m入った所(【図-⑥】)から、標高1150mの二股付近までは、砂礫層が点々と続きます。礫種は、灰色~白色チャート・黒色頁岩・結晶質砂岩・灰色砂岩などの角礫です。この層準の地層は、前述のアンモナイト化石情報や地質構造から、石堂層の礫岩層ではないかと考えました。
 そうなると、大野沢本流のデーターとも合わせ、断層の通過位置を推定する必要があります。岩相で石堂層と三山層を区別するのは難しいですが、ストライプ層準が現れる所から東側は確実に三山層であると考え、本流が蛇行する標高1065m付近(【図-⑦】)で、傾斜が変化する辺りに境があると考え、断層位置を推定しました。

  一方、第7沢の上流部の様子です。
 沢の標高1150のm二股の左岸で、植物(アシの類)の茎化石や、炭化した有機物を含む砂質の黒色頁岩層がありました。さらに、右股に50m入ると、滑滝の連続30m露頭があり、黒色頁岩の角礫や流紋岩火山岩片を含む粗粒砂岩が見られました。崩壊堆積物のような印象を受けます。これらは、内山層のものと思われます。
 さらに、上流の1170m二股から1195m三股では、砂質な黒色頁岩層が現れました。その上流、青味を帯びた灰色中粒砂岩層(1200mASL)、チャート礫岩層(1210mASL)、粗粒砂岩層(1220mASL)と、砂が多くなります。いずれも、内山層と思われました。

 第4沢で確認できた「基底礫岩層から始まる内山層の層序」と照らし合わせると、少なくとも、基底礫岩層や二枚貝を含む黒色頁岩層などの最下部を欠いていると思われます。
 また、第6沢で見られた内山層基底礫岩層の東側への連続も断たれています。それで、後述する茨口沢と大野沢上流部との関係情報から、「茨口沢断層」が、東側から続いてきて、第6沢の内山層基底礫層付近で、落差は解消されるのではないかと考えています。

 


(3) 「四方原-大上峠断層」が、イオドメ滝直下を通る

 大野沢に「イオドメ滝」【図-⑧】があります。本来は、「魚止めの滝」と呼んでいたと思われますが、抜井川本流の乙女ノ滝や三段滝に匹敵する大きな滝です。

 大上峠に至る大上林道ヘアピンカーブ付近に、内山層の基底礫岩層の露頭があり、この延長を大野沢本流(標高995m付近)で直接確認できるわけではありませんが、対応する対岸の沢との合流点付近から上流側が、内山層の分布域です。内山層が大野沢本流で見られるわずかな範囲で、ちょうど、この滝の下まで内山層が見られます。

 滝の上の本流に入るなり淵があり、沢水がゆっくりと渦巻いていました。林道側からの崖崩れがあり、それを林道の安全確保の為に、さらに崩したものと思われ、多量の岩塊が沢に落ちて、天然の「ロックフィル・ダム」ができていました。沢の水は、川底の崩壊岩塊の中に勢いよく吸い込まれ、お風呂の栓を抜いた時、転向力(コリオリの力)によって、鳴門の渦巻きを作っていたわけです。

 滝が境で、ここから第6沢との合流点までは、層理面が不明瞭な砂岩や礫岩など、全て粗粒岩です。第6沢の合流点(【図-⑨】)には、閃緑岩の大礫を含む礫岩層があります。

 イオドメ滝【図-⑧】から第6沢と本流の合流点【図-⑨】までの範囲は、岩相からみて、瀬林層(上部)と思われます。つまり、不連続であることは明らかで、下流側(西側)と上流側(東側)に、それぞれ、四方原-大上峠断層と、大野沢断層が通過していると考えました。
 大野沢中流域では、これらの断層により、内山層/瀬林層(上部)/石堂層/三山層と、区分できることがわかりました。これは、大野沢林道の調査でも確かめられました。

 

        
(4) 大野沢林道の入口から第6沢までの調査 

 

 【図・大野沢支流第5沢~第7沢のルートマップ】は、スケールが大きいことと、古いものを使用しているので、断層の南側範囲は未記入です。そこで、もう少しだけ精度のある【下図】で補足します。
 余談ながら、平成8年11月4日、大野沢林道の調査は、「林道なら・・」と、家内も付いて来ることになりました。私の調査中、家内は野山の草花観察をしたり、タラの木を捜していました。

 

f:id:otontoro:20210209104429j:plain

大野沢林道のルートマップ

 

 大野沢林道の入口から「コンクリート壁」までが、内山層の分布域です。
 平成5年7月4日の調査で、イオドメ滝直下を抜ける「四方原-大上峠断層」を推定しました。滝の下は、二枚貝の化石を含む内山層の黒色頁岩層で、滝自体は瀬林層(上部)の中粒~粗粒砂岩層でできています。
 そこで、大野沢林道にも断層通過の証拠があるだろうと考え、河床から林道工事で切り崩したガレ場を登って、林道に出ました。【図のコンクリート部分】で、内山層の二枚貝化石を含む層準は見つけられませんでしたが、滝を形成する砂岩層準は、確認できました。さらに、砂岩を主体とし、わずかに礫岩層と黒色頁岩層を挟む、目視できる規模の断層を発見しました。

 崖の2露頭の断層面が「N10~15°E・60~70°E」、林道上で「N15°W・80°E」の走向・傾斜データーを得ました。

 それが、平成8年の調査では、コンクリート壁で覆われていました。崩れ易い箇所だと判断して、防護工事をしてくれたのだと思いますが、四方原-大上峠断層の通過する位置を推定した貴重な露頭でした。
 ここ(コンクリート壁のほほ中央)から第6沢までが、上部瀬林層の分布域となります。
 ただ、周囲の関係から全体は大きな向斜構造だと思われますが、実際の露頭は複雑で、小背斜や小断層・滑り面が見られます。それで、大野沢林道の柱状図作りでは非常に判断に迷いました。これらを内部での小褶曲構造と考え、西側のコンクリートから滑り面では背斜構造を採用し、東側は西落ちの単斜構造と解釈し、『閃緑岩入り礫岩⇒胡麻塩礫岩⇒砂泥互層(ケスタ)』の層序と考えました。 

 大野沢林道と第6沢の交差する入口近く、標高1080m付近の左岸には、断層粘土が認められ、青味を帯びた灰色中粒砂岩と黒色頁岩の互層が乱れています。
ここを大野沢断層が通ると推定しました。断層の東側は、石堂層の砂質黒色頁岩層です。
 その後、大野沢林道には行っていませんが、当時(平成8年)は、新鮮な林道の切り通し露頭でしたが、草木に覆われ、わかり難くなっていると思います。しかし、コンクリート壁は、逆に目印になるかもしれません。

 

  【編集後記】

 本文中の記録や記載内容は、複数回の調査をまとめたものですが、比較的、短い距離で、新第三紀の内山層と、白亜紀の瀬林層(上部)・石堂層・三山層が、断層によって接していることを観察できたのは、感動と共に記憶に良く残っています。

 読者の方の中には、地質図を見ないと理解し難い地質構造をしていると思いますが、今日の所は、『鍵掛沢断層群』は、3つの断層があって、それらが証明(推定)されると共に、その証拠となる地層(化石や岩相)が観察されたという説明で、お許しください。

f:id:otontoro:20210209111657j:plain

荒船山の東側稜線に雲がかかる

 本文中の「イオドメの滝」の渦巻きに関して、「天然のロックフィルダムのように」との写真を撮影したはずですが、残念ながらみつかりません。荒船山から続く、山稜を越える雲の写真で終わりとします。         (おとんとろ)