北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語(蛇紋岩帯―2)

3.中央構造線を挟む領家帯と三波川帯

 プレート同士が衝突し、沈み込みにより、地下深部で対を成す変成帯が作られることはわかりましたが、地表に現れ、中央構造線(Median Tectonic Line)という大断層を境に接していることの説明は、不十分です。

 【図・下】は、古第三紀末頃のプレートと日本列島の位置を、現在の地図上に復元したものです。白亜紀を通じて形成されつつあった中央構造線と棚倉構造線などが、大陸の断層と関連した大断層の延長と考えられている点に注目です。そして、緑色に囲まれた部分が、これから日本列島になる地塊です。北海道は、ばらばらです。
 この後、日本海の拡大に伴って変動する日本列島中央部は、復元し難いで状況です。そして、日本海の形成は、短期間(漸新世~中新世)であったらしいことや、大陸地殻が消滅してしまったことは、長い間、謎でした。

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日本列島の復元(始新世)

 

 しかし、論文『日本海の拡大と構造線~MTL、TTLそしてフォッサマグナ ~柳井修一・青木一勝・赤堀良光/地学雑誌119(6)・2010年』では、明快に、次のように説明してくれました。(関連分の要約)

 第三紀始新世に、ユーラシア大陸の東縁の地下に、マントルから小規模な「プルーム」が上昇してきて、大陸地塊を引き裂き始めます。次々と上昇したプルームにより、大陸地塊は割れたり、浸食されたりして失われ、日本海が拡大していきました。フォッサマグナ地域は、激しい海底火山活動と厚い堆積物をためた時期とも一致します。

 日本海の拡大により、西南日本内帯(領家変成帯)は、外帯(三波川変成帯)に衝上し、両変成帯は接近します。この境目が、現在、地表で観察できる中央構造線の起源ではないかと考えています。その後、浸食により、衝上した内帯が浸食され、やや地下深部の領家帯が露出し、中央構造線を介して三波川帯と接するようになったのではないか。

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日本海の構造発達史

 

 

4.蛇紋岩固体貫入のイメージ

 蛇紋岩が、超塩基性岩からの変成岩であり、対を成す変成帯に見られることや、変成帯の概要が少しわかった気になりました。しかし、どうしても、『蛇紋岩が固体貫入する』というイメージがわかりません。・・そう言えば、学生時代に訪れた神居古潭変成帯にも蛇紋岩が多かったと思い出して検索してみると、植田勇人(うえだはやと)先生のWebsiteHayato UEDA's research」で、疑問の答が見つかりました。【下図参照】
 研究紹介の『沈み込み帯内部での固体物質移動』と題する内容です。(関係分の要約)

 長い時間スケールでみると、プレートの沈み込み帯の内部では、地殻物質が移動しているサイクル(循環)があります。海溝に堆積した厚さ1kmほどの地層は、海洋プレートの沈み込みの力を受け、逆断層や褶曲によって積み重なりながら増大し、10~20kmの付加体となって、大陸地殻の一部になります。海洋プレートと共に、深部まで沈み込んだ堆積物や海洋地殻の玄武岩は、高圧変成岩になり、20~30kmの深部で海洋プレートから離れ、底付け付加体となります。そして、底付け付加された高圧変成岩は、引き伸ばされながら、地殻の中を上昇して地表にまで達します。(三石川~静内川の神居古潭帯)
 一方、堆積物や海洋地殻が、ウェッジ・マントルの下、30~80kmまで沈み込むと、海洋プレートから供給された水が、カンラン岩と反応して、蛇紋岩になります。堆積物や海洋地殻起源の変成岩は、プレートから離れ、蛇紋岩体の中に取り込まれます。
 蛇紋岩と変成岩の混じった『蛇紋岩メランジェ』は、地殻を突き抜けて上昇し、やがて地表に露出します。

 (これが、固体貫入のイメージのようです。)

 付加体と火山孤の間には、上記の上昇した付加体に堰き止められた「前孤海盆」ができ、厚い堆積層が作られます。(蝦夷層群) 西南日本では古い時代の付加体、北海道では海洋性地殻(オフィオライト・ophiolite)が、その基盤となりました。

 

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蛇紋岩の固体貫入モデル

 ところで、『蛇紋岩メランジェ』は継続的ではなく、限られた時期に集中して上昇してくるようです。上昇時には、前孤海盆やその基盤は隆起しながら引き裂かれ、上昇が止まれば、再び沈降して海盆に堆積が再開されます。海溝に堆積物が少ない場合や、海山など凹凸がある場合は、プレート上盤(付加体なども)が削られ、海洋プレートと共に深部に沈み込み、マントルの奥底へ消えていくと考えられています。≪構造性浸食作用という。≫

 少なくとも一部は、高圧変成岩となって、上盤地殻に底付け付加すると考えています。

 

 【編集後記】

 長い間、疑問として、イメージすら湧かなかった『蛇紋岩の固体貫入』が、少しだけ理解できるようになりました。本文の内容は、まずは私自身がわかるように少し手直しした専門家の方の論文の引用ですが、「蛇紋岩メランジェ」というのがキーワードです。

 実際のフィールドで、蛇紋岩の露頭を見ると、「火山岩の貫入が、周囲の地層を押しのけて、明確な境があったり、地層の弱線を利用して侵入してきたりする」印象とは違います。周囲の地層の内容物と混ざりあったり、蛇紋岩岩体の大きさが統一されていなかったり、明らかに、マグマのようにスムーズにとけ込めなかったように見受けられます。しかし、周囲の岩盤などと競合して、上昇してきたのでしょう。

 それ故、蛇紋岩が分布する有る程度、幅のあるゾーンを「蛇紋岩帯断層」と考えるきっかけになりました。