北海道での青春

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佐久の地質調査物語(化石からの情報)

      化石からの情報

1.石堂層から産出の動物化

 南佐久郡誌(昭和33年・藤本治義ほか)では、「石堂層」から46種類の動物化石を記載しています。この石堂層分布は、私たちの地層区分と多少異なる地域も含まれています。そこで、産地が石堂橋付近からと明らかなものについて、以下に示します。

○Astarte subsenecta YABE and NAGAO
・斧足綱・異歯目・エゾイラウオガイ科の一属

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エゾイラオウガイ

○Cardium ishidoense YABE and NAGAO
 ・斧足綱・異歯目・ザルガイ科・カルジウム

○Polymesoda otsukai (YABE and NAGAO)
 ・斧足綱・異歯目・キレナ(Cyrena)科
・殻はハマグリ型。淡水~汽水棲。形態や生態は、
  シジミに似ている。
・現在は、Protocyprina、Polymesoda、Costocyrena、Corbicula などに編入されている。

○Protocyprina naumanni (NEUMAYR) 大型のキレナ(Cyrena naumanni)は、白亜紀
  前期の領石動物群の代表的な化石。現在は、上記の名前に変更されている。

○Simbirskites kochibei YABE and NAGAO 頭足綱・四鰓亜綱・菊石目(Ammonoidea) ・シンビルスカイテス・北方型アンモナイト。モスクワ東方のシンビルスクを
   模式地とする黒色泥岩の中に多産する。
  白亜紀前期・バレミアン階(Barremian stage)に対比される。

○Leptoceras asiaticum YABE and SHIMIZU 頭足綱・菊石目・? アンモナイト

 

 日本化石集(Atlas of Japanese fossils №9-52) では、長野県佐久町地方の古白亜紀二枚貝化石(武井晛朔・竹内敏晴)として、以下の化石を紹介しています。
 佐久町(現・佐久穂町)大日向・石堂(石堂層)・・・黒色砂質泥岩からとあるので、石堂橋の西側露頭からのものと思われ、下部白亜系の有田統に対比しています。

 

○Nuculopsis (Palaeonucula) ishidoensis (YABE et NAGAO)
・古多歯亜綱・Nuculoida目・マメクルミガイ科(Nucula)の一属

○Nuculana (s.l.) sanchuensis YABE et NAGAO
・古多歯亜綱・Nuculoida目・チリロウバイ科の一属

○Nanonavis (Nanonavis) yokoyamai (YABE et NAGAO)
二枚貝綱・翼形(Pteriomorphia)亜綱(or ウグイスガイ亜綱)・フネガイ(Arcoida)目
二枚貝のなかでも起源の古い原始的なグループで、オルドビス紀から存在しているとされる。

○Trigonarca cf. obsoleta YABE et NAGAO
二枚貝綱・翼形(Pteriomorphia~プテリオモルファイア)亜綱・フネガイ(Arcoida)目

○Laevicardium ? ishidoense (YABE et NAGAO)
・異歯(Heterodonta)亜綱・マルスダレガイ(Veneroida)
 目、異歯亜綱のほとんどを占める大きな目である。
 ・代表種のハマグリ目とも訳す。

○Panopea (Myopsis) plicata (SOWERBY)
・異歯(Heterodonta)亜綱
  ・オオノガイ(Myoida)目
  ・ナミガイ属(Panope) の仲間

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panope(ナミガイ)

  同化石集(№43-253 ・田村 実 ) では、石堂層(石堂橋西側露頭)からとして、次の化石報告があります。

○Pinna sp. Pinna robinaldina D'ORBIGNY  ・二枚貝綱・翼形(Pteriomorphia)亜綱
 (or ウグイスガイ亜綱)・ウグイスガイ(Pterioda)目・ハボウキガイ科の一属

  また、同化石集では、瀬林層の化石の報告(武井晛朔・竹内敏晴)もあり、佐久町大日向大野沢からとして、次の化石を紹介しています。砂質泥岩からとありますが、大野沢の産地は不明です。ちなみに、瀬林層を下部白亜系の宮古統に対比させています。
 ※大野沢で砂質泥岩なら、石堂層か三山層のような気もしますが・・・。

○Tetoria (Paracorbicula) sanchuensis (YABE et NAGAO)
・異歯(Heterodonta)亜綱・マルスダレガイ(Veneroida)目・汽水棲

○Costocyrena radiatostriata (YABE et NAGAO)
・異歯(Heterodonta)亜綱・マルスダレガイ(Veneroida)目・汽水棲

 

2.白亜紀地質年代

 世界の白亜系は、主に海棲のアンモナイト化石を中心に編年され、次ページのように、下部・上部が6つずつの階(stage)で構成されています。これに対して、日本の白亜系は、下位から、高知統/有田統/宮古統/ギリヤーク統/浦河統/ヘトナイ統の6つの統(series)が対比されています。
 また、地質年代の編年には、放射性同位元素を使った「絶対年代」も併用されていて、白亜紀前期は、146Ma~97Ma(1億4600万年前~9700万年前)、白亜紀後期は、97Ma~65Ma(9700万年前~6500万年前)と測定されています。

 

※2019年(令和元年)に「国際年代層序表(International Chronstratigraphic  Chart)」が発表されました。それにより、紀(Period)・世(Epoch)・期(Age)のレベルで、俗に言われる放射性同位元素を使った絶対年代との対比が変更されました。

最新のものの方が良いので、以下のように訂正し、対応する数字も最新のものとします。(尚、誤差に相当する部分は省略してあります。)

 白亜紀前期は、145.0Ma~100・5Ma(1億4500万年前~1億50万年前)、白亜紀後期は、100.5Ma~66.0Ma(1億50万年前~6600万年前)です。

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世界v標準階と日本の白亜系(山中地域白亜系の対比)

時代論になると、私たちは完全に無力ですので、論文などで説明したいと思います。

① 白井層と石堂層の地質年代
 石堂層からは、アンモナイトの化石が産出するので、早くから世界標準との対比が確立され、西欧(特にスイス)で用いられているネオコミアン(注-*)階(Neocomian stage)だとされてきました。そこで、石堂層は有田統と考えられてきました。
【注-*;欧州の下部白亜系で、さらに、Berriasian~Valanginian~Hauterivian~Barremianの各階に細分化されている。泥灰質石灰岩(marl-limestone)で代表される。】
現在では、白井層と石堂層は、「Hauterivian前期~Barremian前期」とされ、松川正樹先生を始め、Obata et al. in松本達郎ほか1982、田代正之ほか1980などと、多くの研究者の見解が一致しています。前述の図表では、「有田統」の中に表示しました。


② 瀬林層と三山層の地質年代

 瀬林層と三山層については、研究者により見解が分かれています。
 松川先生(小畠・松川1982)は、浮遊性有孔虫(Globigerinelloides sp.)やアンモナイト(Anagaudryceras cf. sacya(FORBES))の産出から、三山層は、「Aptian後期~Albian前期」と
しました。(その後、化石産出層準を三山層最下部から、瀬林層最上部と訂正・1983)
 武井晛朔先生(1963)は、三山層の泥質岩から、(Inoceramus hobetsusensis  NAGAO et MATSUMOTO)を報告し、三山層が「Turonian」ie,上部白亜系にかかることを示唆しました。

 また、小畠・松川(1983)は、瀬林層を「Barremian後期(上半)~Aptian前期」であろうとしています。

 田代正之先生(1980・1985)は、高知県吾川郡いの町~香美市物部町の広範な調査から、白亜系を再定義し、『物部川(ものべがわ)層群』として総括しました。白亜系は、下位から『領石(りょうせき)層/物部(ものべ)層/柚ノ木(ゆずのき)層/日比原(ひびはら)層』です。
 そして、産出化石の共通性から、領石層(=白井層)、物部層(=石堂層)、柚ノ木層(=瀬林層)、日比原層(=三山層)への対応を考えました。この対応関係によれば、瀬林層は、「Barremian後期~ Aptian前期」となります。

 また、『三山層の含化石層の地質時代は、Barremian~ Aptianと考えられ、特に、Costcyrena minima や Plicatula kochiensis の出現を考えれば、物部地域の日比原層下部層、熊本県八代市の日奈久(ひなく)層下部層、徳島県勝浦郡地域の傍示(ほうじ)層などのAptianに対比でき、なかでも、それぞれの地層の基底部に近い部分に当たるとするのが、適切である。』
 そして、『三山層の基底部は、西南日本の各地で見られる宮古海進(Albian海進)の前の汽水~浅海域の堆積物と同じ物であり、主体は、その上位の宮古海進の本体を示す暗灰色泥質岩であろう。』と述べています。

 つまり、三山層は、「Aptian~ Albian」階になります。そして、山中地域東側地域での厚い黒色頁岩層は、宮古海進に伴う堆積物だと解釈しています。ちなみに、佐久地域では、混濁流(turbidite)相が見られ、黒色頁岩層は、東側地域よりも発達していません。

 

【参考】  【宮古海進】

 白亜紀には、汎世界的に海退期と海進期の繰り返しがあったことが知られています。

  ①海退期(Barremianより前)
 ②海進期(Albian)・・「宮古海進」
 ③海退期(Cenomanian)
 ④海進期(Coniacian~Santanian)・浦河海進
 ⑤海退期(Campanian後期~Maastrichtian)

 この内、岩手県の「宮古層」や北海道の「下部~中部蝦夷層群」などの堆積した 頃、大きな海進があり、厚い堆積物を貯めました。
 宮古海進は、白亜紀前期と後期を分ける位置に当たります。

 

 【編集後記】

 こう言った時代論になると、私たちは、大変に非力であることを痛感します。特に、まったくの素人の人よりは、多少は化石などに興味があっても、属名や種名の同定や、化石の組み合わせによる時代考証と対比は、極めて難しいからです。

 私など、白亜紀の地層から「三葉虫」は出ないし、恐竜化石やアンモナイトは第四紀の地層から発見されることはないという程度の理解で、中学校の理科(高校入試)レベルですから、話にもなりません。

 しかし、地道な化石調査や、物理・化学的な方法で遠く離れた地域の時代が対比され、同じ地球という舞台で地球の歴史を刻んできたことが推理できてくるということについては、とても興味を覚えています。 (おとんとろ)