北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語(地質構造―1)

                    地 質 構 造


 平成4年度の都沢の再調査から5年間の調査資料を元に、平成9年(1997年)に下記の地質図を作成しました。国土地理院発行の2万5000分の1地形図を元にしています。
(調査のルートマップは、5000分の1を基本に作成していますが、大きな縮尺では、細部は表せないので、詳しくは各沢や水系ごとのルートマップを参照してください。)

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山中地域白亜系の地質図 (1997年版)

 

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 【注意】 

①1997年版の後、内山層の調査後に修正されたものもありますが、基本的には変わっていません。

②「四方原(ヨモッパラ山)」の安山岩質溶岩の分布は示されていません。

③大野川最上流部の地質は、複雑で表せないので、「5.大野沢最上流部の調査から」のシリーズで見てください。

 

1.地質断面図からの考察

(1)「乙女ノ滝断層」の東側の様子

     (瀬林層と三山層の欠如)

 

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大野沢~ヨセ沢尾根断面(→1312 と →ヨセ沢尾根を結ぶ)

 乙女ノ滝断層を境に、東側では、白亜系の比較的上位の瀬林層と三山層の露頭が、見られません。①元々堆積しなかった、②(標高の高い地域なので)削剥されてしまったという可能性が考えられます。瀬林層は、海退期の堆積層なので、①と②の両方の可能性がありますが、問題は、三山層です。
 群馬県側~埼玉県秩父地方に分布する三山層は、深海性の厚い黒色頁岩層が発達していて、蛇紋岩帯断層を越えて、堆積盆が広がったと考えられています。
 この時、乙女ノ滝断層の落差や、浸食作用だけに原因を求めることは、不十分です。
 佐久地方の三山層堆積構造から、堆積環境の違いで説明しようと思います。(後述)

 

(2)四方原-大上峠断層による向斜構造の重複

 

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大野沢支流第4沢~東ナカヤ沢断面図(P1308 と 四方原山を結ぶ)

大野沢支流・第4沢の奥(P1308)~四方原山(1631m)断面は、佐久側分布域のほぼ中央の様子がわかります。四方原山-大上峠断層の北(図の左)と南(図の右)の両側に、向斜構造があります。 これは、元々、ひと続きの向斜構造でした。主向斜構造は、西側の抜井川の少し南側をNW-SE方向に延び、この断面図付近で、断層によって重複します。そして、大きく北東の大野川に移動した後、乙女ノ滝断層で、南西に戻り、石堂層の向斜構造につながり、十石峠から東側に延びていきます。
 重複する原因は、鍵掛沢断層群の横ずれ運動の結果です。(「隣接する下部瀬林層の謎」を参照)
 褶曲構造(向斜・背斜)に注目すると、非対象で、褶曲軸面が著しく南側に傾いています。これは、地層が堆積した後、地表に現れるまでの間に強い応力を受けて褶曲した時、「現在の方向で、南側からの受け止める力と北側からの押し上げ、覆い被さるような応力」による異方向の力で圧縮された結果だと考えられます。

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※尚、この断面図には、蛇紋岩帯断層が載っていませんが、実際は、さらに南側にあります。「鍵掛沢断層と大野沢断層に挟まれたブロック」の大移動が原因です。


 
(3)山中地域白亜系の西端 (都沢での上部瀬林層の欠如)

 

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腰越沢~都沢断面図(P1337 と 御所平 を結ぶ)

 腰越沢と古谷集落北側の沢の奥(P1337)~御所平(P1248)断面は、山中地域白亜系・佐久地域の西端の様子です。
 残念ながら「白井層」が無いが、下位から御座山層群・蛇紋岩帯断層(先白亜系と白亜系の境界、蛇紋岩メランジェ)・石堂層・瀬林層・三山層、そして白亜系を基底礫岩層群で不整合に覆う内山層の各メンバーが揃っている。都沢周辺で見られる典型的な層序である。ところが、注意深く見ると、抜井川の南側(図の右側)には、上部瀬林層が無い。
 都沢の下部瀬林層は、ほとんどが砂礫岩層で、この後、佐久地域の他の場所で、上部瀬林層が形成されている間、陸化していたようだ。反対に、上部瀬林層の分布しているのは、抜井川の北側だけで、偏在している。北側でも、大野沢最上流部では、シダ植物化石層準(上部層の最下部)だけが見られる露頭もある。瀬林層の時代は、海退が進んだ。
 ※地域全体の西端は、石英閃緑岩体によって覆われ、先は不明になっている。

 

 【編集後記】

 いよいよ「山中地域白亜系」の内容も終盤となってきて、褶曲構造や断層の構造、それらの活動時期の話題になります。実は、これって私が一番興味を感じる内容です。

 地球の歴史をフィクションのように述べている訳ではありませ。小さな証拠や、そう判断・推理する内容を集めて、総合的にまとめていきます。簡単そうに思えて、結構、大変なことです。

 同時に、本文に出てくる「地質断面図」も、見るとすぐに、見えないはずの地下の様子が視覚化されて、あたかも本物のように思えますが、実際は、想像と、もうひとつの方の創造があります。もちろん、でたらめではありませんが、この作図は、とても大変です。普通は、南北断面があれば、東西断面もあるはずですが、この地域の場合、重要度は少ないかな?(本当は、西と東で、無い地層があることの説明には必要だが・・)と思い、作成してありません。一番の理由は、大変だったからかもしれません。そんな訳で、「断面図」のこと、少しは大切に扱って欲しいものです。(おとんとろ)