北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-104

   ホド窪沢・中村林道の沢・所沢の調査から

 この年(平成12年度)の夏の調査は、天野和孝先生をお迎えし、内山層の化石について学ぼうと、神封沢や細萱林道の沢に入りましたが、まずは、コングロ・ダイクを中心に話を進めたいと思うので、今年度と翌・平成13年度に調査域を西側に広げた沢の様子を、先に見てみようと思います。【ホド窪沢~所沢のルートマップ】

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ホド窪沢のルートマップ

 

3 ホド窪沢の調査から

 ホド窪沢は、その中流部から上流部にかけて、コングロ・ダイク露頭が、非常に多く、注目すべき沢でした。

 内山川本流から調査を始めました。釜の沢付近と同様に、火成岩の影響を受けたのか、黄鉄鉱の入る黒色頁岩層がありました。沢に入ると、しばらく露頭がなく、南西から入る沢の手前で、下位から黒色泥岩、凝灰岩層(30cm)、凝灰質粗粒砂岩層(50cm)、黒色泥岩の砂泥互層(N40°E・20°SE)を確認しました。(【図-①】)

 尚、添字「t」は、凝灰岩層(tuff)が含まれていることを示します。


 標高865m付近て、沢が小さく湾曲します。黒色泥岩はいくぶん粘板岩化(slate)しています。黒色泥岩と凝灰質粗粒砂岩の境で、N20°W・12~20°NEを測定しました。湾曲部の泥岩中から、二枚貝化石(Macoma とYoldia sp. )を見つけました。
その上流で、薄い凝灰岩層を挟む中粒砂岩層で、N60°W・40°Nです。(【図-②】)

 【図-③】は、標高870~880m付近を示します。全体は、黒色泥岩層で、ここに貫入しているコングロ・ダイクがありました。上流側と下流側、それぞれの先端は土砂に埋もれて見えなくなっています。幅30cmで、長さ3.5m(下流側)、そして3.5m途切れ、長さ2.5m(上流側)の2露頭です。

 周囲の黒色泥岩層(N60°E・10~12°SE)の、東西方向に近い走向に対して、コングロ・ダイクは、南北に近い方向で非調和的に貫入しています。ちなみに、下流側のデータは、N5°W・垂直ないし、部分的に70°Wの傾斜です。

 

 コングロ・ダイクの礫種や配列について、次のような特徴がありました。

 

(ア)礫種:暗灰色~黒色細粒砂岩・黒色頁岩~粘板岩・灰色中粒砂岩

(イ)最大経は、9cm×11cm ・亜角礫が多い。

  ・チャートや火成岩起源は認められない。

(ウ)コングロ・ダイクの東側が平坦で、西側は多少変化する。・平坦面に対して、礫の長径が並ぶ。(ある種の堆積時の特徴か?) ※東西の方向については、ここだけの特徴であった。

(エ)コングロ・ダイクの内部に「ひじき」構造(下の図を参照)の部分がある。黒色泥岩や砂岩が、角礫(直径2.5cm)や岩片がちぎれて入っている。

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 上流側のコングロ・ダイクの少し上流は、黒色泥岩が優勢な砂泥互層で、滑滝を形成していました。泥岩は、粘板岩にはなっていませんが、砂の部分が硬く造瀑層となっているようです。滑滝の上で、凝灰岩層(30cm)を挟む砂泥互層で、N60°E・10°SEの走向・傾斜を示し、黒色泥岩は下流部とほぼ同様な傾向を示していました。(【図-③】)

 標高885m付近でも、幅10cmとやや薄くなりましたが、長さ2mのコングロ・ダイクがありました。

 周囲の黒色泥岩層や礫の特徴についても、同様です。黒色泥岩層には5cmの凝灰岩層が挟まれていました。そして、標高890mの二股付近では、黒色泥岩(主)に明灰色粗粒砂岩との互層(最大30cm厚の砂岩層)で、滑滝を形成していました。(【図-④】)

 標高895m付近では、黒色泥岩層(全体が均一で走向・傾斜は測定できず)の中に、隣接した大小のコングロ・ダイクが見られました。大きい方は、NSに長さ10m延び、最大幅は12cmで、両端では消滅します。この東側に、上流側で30cmほど離れて、幅3cm×長さ2mの小さなコングロ・ダイクが、付随していました。例え話をすれば、シロナガスクジラの母子が泳いでいるかのような気がして、思わず微笑んでしまいました。(【図-⑤】)(【下の図】様々な小型コングロ・ダイクの産状の産状【エ】を見てください。)

 標高900m付近で、二枚貝スミゾメソデガイ Yoldia sp.・シラトリガイMacoma sp.と、ウニ(カンパンウニ?)の化石を見つけました。(【図-⑥】)


 標高910m(【図-⑦】)から標高920m(【図-⑧】)にかけて興味深い露頭が見られました。写真は、【図-⑦】付近のもので、上流側の滝(標高915m)を写したものです。全体が均一で、層理面の不明瞭な黒色泥岩層です。そこで、少し下流の凝灰岩層(10cm)を挟む黒色泥岩層との境で測定した走向・傾斜(N30°E・6°SE)を採用すると、上流(南東側)に向かって緩く傾斜していることになります。

 

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ホド窪沢の標高915m付近の滝(下流側から観察)

 水の落ちている滝口から手前に、一直線に見える部分がコングロ・ダイクです。ちょうどコングロ・ダイクの幅20cmで、流れ出ています。長さは、17mで、方向は(N5°W)です。35°ほどのずれで、互いに交わっています。礫種は、灰色中粒砂岩や黒色頁岩です。
 滝自体は、風化すると黄土色となる暗灰色(凝灰質・火山砂に見える部分もある)粗粒砂岩層が造瀑布層となっていました。  
 滝の上にでると、黒色泥岩層の中に、コングロ・ダイク(幅20cm×長さ15m・N10°E延びの方向)が現れました。そして、暗灰色火山砂の粗粒砂岩層が、小さな滝を形成していました。
 砂岩層の規模が小さいので、小さな滝となっていたのだと思いますが、下流部のパターンが繰り返されていました。(【図-⑧】)・・・成因に関わり、後で詳しく再登場させます。
 少し上流で、二枚貝ナギナタソデガイYoldia spを見つけました。付近の走向・傾斜は、N60~80°E・10~12°Sでした。

 

 標高930m付近では、乳白色となった砂岩や泥岩が見られました。層理面が残っていて、EW・10°Sです。その少し上流に小さな滑滝があり、滝の下にコングロ・ダイク(幅が5~13cmと変化する、長さ2m、延びの方向N20°W・垂直)が見られました。滝の上では、乳白色砂泥互層は、EW・10°Sでした。標高1040mの二股にも同様な産状の砂泥互層があります。

 そして、二股の少し上流で、玢岩(porphyrite)の露頭が見られました。(【図-⑨】)このことから、乳白色~明灰色で、いくぶん光沢のある岩相は、黒色泥岩や灰色砂岩が、玢岩により熱変質されたものではないかと考えました。

 標高950mの二股から上流へ、【図-⑩】の二段滝(965mASL付近)および、【図-⑪】(980mASL付近)まで、様々なコングロ・ダイクの形態や産状が見られました。
 標高950m二股では、黒色泥岩層に黄鉄鉱(pyrite)が多量に晶出しているのに、なぜか熱変質を受けていない。ここから水平距離で10m上流で、小規模コングロ・ダイク(幅8cm×長さ45cm)がありました。その上流、黒色泥岩の川底にコングロ・ダイクが、産状【様々な小型コングロ・ダイクの産状(オ)】のように見られ、東側部分(図の左側一部)は、灰白色となって熱変質されていました。

 標高965m付近(【図-⑩】)には二段滝があり、下流側から、落差1.5m、3.5mの棚、落差2.5mと続きます。注目すべきは、元は泥岩と推定されますが、乳白色~灰色~黒色と、玢岩により熱変質される程度の違いが観察できました。(詳細に記録・観察してないのは、残念です。)

 この少し上流に、幅20cm×長さ1mのコングロ・ダイク(延びの方向N40°E・垂直)がありました。注目すべきは、礫種が、結晶質灰色砂岩や黒色頁岩の岩片と共に、【様々なコングロ・ダイクの産状(キ)】のような黒色細粒砂岩と粗粒砂岩の一度堆積した証拠のある地層の一部と思われる礫が見られたことです。

 その少し上流部で、幅20cm×1mほどの小規模コングロ・ダイクの露頭に続き、標高980m付近では、【様々なコングロ・ダイクの産状(カ)(P10)】のように、熱変質された黒色泥岩層の中に、コングロ・ダイクがEW方向に貫入していました。この露頭では、泥岩が南北走向を示していて、少し下流の泥岩は熱変質されていませんでした。

 

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小規模コングロ・ダイクの産状(スケッチ)

 【編集後記】

 久しぶりの「はてなブログ」に載せる話題は、ホド窪沢のコングロ・ダイクを中心とした話題でした。この後、ふたつの情報がありますが、長くなるので、次回に回しました。ただし、重要な産状で、この後、何度も出てくる内容なので、分けたという理由もあります。

 また、標高915m付近の滝も写真で紹介しましたが、これも、滝の上と下を観察すると、成因を説明できる情報が得られました。それにつけても、コングロ・ダイクを語る時、その産状の多さ、多様さを観察できるのが、ホド窪沢でした。

 ところで、「はてなブログ」が10日間以上、中断していましたが、前半は農作業で、後半は所属している俳句会が、毎年、倉沢薬師堂に奉納している「俳額」の制作に没頭していました。それが、昨晩で一応、完了したので、後は、良い日を選んで、昨年度の俳額と入れ替え作業を半日ほどかけてすれば、本当の終了です。

 好きな活動ですが、実際にやってみると大仕事で、ようやく肩の荷が降りたという心境です。元の日常に戻れそうです。本格的な野良仕事も始まってきます。(おとんとろ)