北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-115

第Ⅲ章 内山層の化石

 新第三系を中心とした私にとっての初年度・平成12年8月の調査で、釜の沢下流部で見たコングロ・ダイクに興味を覚え、追究してきた様子と主なコングロ・ダイクの産状を述べてきました。ところが、北部地域(内山川水系の南側支流)のコングロ・ダイク分布は、大沼沢から西の範囲に限られます。それも、内山層全体では、比較的特定な層準に集中しているようです。これについては、他の地域の様子、および成因についての考察の項で、もう一度話題にしたいと思います。
 平成12年度には、天野和孝先生(上越教育大学教授)に、我々の調査に同行していただき、内山層の化石について教えていただきました。
 そこで、本章では、調査年度では、寧ろ先に行なっていた館ヶ沢や神封沢などの様子を紹介しようと思います。【館ヶ沢~神封沢ルートマップ】を示します。

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館ヶ沢~神封沢のルート・マップ

【注】 実線で示した沢筋とデーターに添えられた番号数字(①)は、説明文の

 【図-①】に対応しています。尚、それぞれの沢ごとに番号を振ってありますので、       

 注意してください。

 

1. 神封沢の調査から

 2000年9月9日(土)に、天野先生を佐久ICまで六川・唐沢先生が迎えに行き、私たちは現地で集合しました。さっそく、神封沢下流の堰堤から入りました。
 堰堤(895mASL)から下流は、凝灰質暗灰色(風化すると黄土色)粗粒砂岩層を主体とし、わずかに黒色頁岩層を挟む連続露頭(20m)がありました。(【図-①】)
 西から小さな沢が流入する標高900m付近では、目視できる断層が、沢の左岸で認められました。(【図-②】)断層面は、EW・70°Nで、上流側(南側)は黒色頁岩層が2層挟まれた粗粒砂岩層です。一方、下流側(北側)は、凝灰質粗粒砂岩層のみで、対応関係による落差などの情報は得られませんでした。形状から、北側(粗粒砂岩層だけ)が落ちた正断層と思われます。走向・傾斜は、N15°W・20°SW(南側ブロック)と、N25°W・30°SW(北側ブロック)でした。図では、前者の値を代表させ、表示してあります。

 東から小さな沢の流入があり、その上流の標高905m付近では、黒色頁岩と暗灰色細粒砂岩の互層(N10°E・10~12°W)に、二枚貝Macoma sp. (シラトリガイ)が、わずかに含まれていました。(【図-③】)

 標高910m付近の左岸(【図-④】)では、目視できる断層と断層粘土が認められました。下流側(北側)から、黒色頁岩層/凝灰岩層-1(北落ち)/黒色頁岩層(垂直)/凝灰岩層-2(南落ち)/黒色頁岩層(垂直)/断層面(EW・北落ち)/断層粘土層/黒色頁岩層です。2枚の凝灰岩層は、3m離れています。非常に構造のわかりにくい産状です。すぐ上流の細粒砂岩層との境のN30°E・15°NEで、全体を代表させてあります。

 左岸から崖の迫る標高915m付近(【図-⑤】)では、黒色頁岩層が、露頭幅40mに渡って見られました。全体の走向・傾斜はN50°E・15°NWです。この中ほどで、帯青明灰色凝灰岩層(幅70cm)が含まれていました。量は少ないですが、緑色凝灰岩の類としても良いかもしれません。右岸では、凝灰質黒色細粒砂岩層でした。また、黒色頁岩層から、巻き貝のタマガイ(Natica sp. )を見つけました。

 標高925m二股から少し上流で、玉葱状風化の黒色泥岩が見られました。玉葱状構造(Onion structure)は、気温差や、それに伴う表面と内部の膨張量の差から、歪みで割れる現象ですが、花崗岩火山岩(アンザン岩・ゲンブ岩)、塊状細粒砂岩に多い傾向があるようです。内山層の黒色泥岩も、厳密な粒度から言うと、砂質泥岩~細粒砂岩と分類できる砂相なので、こんな現象が多く現れるのかもしれません。(【図-⑥】)

 標高935m付近では、沢が埋まり露頭が少ないです。そんな中、(【図-⑦】)では、灰白色泥岩層(色の違いに注目、黒色でない、シルト岩)で、わずかに挟んだ粗粒砂岩層との境で、N80°E・45°Sでした。

 標高938m二股を左股に登って、標高970m付近では、下位から、灰白色泥岩層/礫岩層/凝灰質暗灰色粗粒砂岩層/灰色中粒砂岩層と重なる露頭がありました。泥岩と礫岩の境で、N50°E・48°SEの測定値を得ました。(【図-⑧】)・・・実は、この礫岩層には、やや謎が多く、後述します。・・・・再び、沢を降り本流に戻ります。

 標高950m~960m付近は、下流から上流まで(滑滝ではないが、沢の段差)が、良く見渡せる場所で、段差の下では、二枚貝の化石が見つかりました。標高950m付近(【図-⑨】)の右岸側露頭では、灰白色泥岩層から、オウナガイ(嫗貝・Conchocele sp.)と、ツキガイモドキ(Lucinoma annulatum 〔Reeve〕)が、ノジュールの中から見つかりました。これらは、メタン(CH4)や硫化水素(H2S)などの多い泥の中で棲息する嫌気性環境の二枚貝です。その上流7m(【図-⑩】)で、シラトリガイ(Macoma sp.)を見つけました。沢の段差から、水平距離で15mの位置です。

 そして、沢の段差の部分と、その両岸は、礫岩層(1mほど)でした。やや無理をして走向・傾斜を求めてみると、N50°E・20°NWで、北落ちです。
 この礫岩層の少し上流の黒色泥岩層で測ると、N45°W・5°SW、およびN70~80°W・5~10°Sと、南落ちでした。(【図-⑪】)図への表示は、後者のデーターを採用し、入れてあります。しかし、これほどの近距離でこれだけ走向・傾斜が異なるのは、礫岩層とは明らかな不整合関係にある構造です。(詳しくは、後述します。)
  東からの小沢付近(【図-⑫】)の玉葱状風化の黒色泥岩を観察した後、標高980mで、調査を終えました。

 

 【編集後記】

今日から、何回かに分けて、内山層の化石を紹介します。本文中にも登場しましたが、唐沢 茂 先生が、上越教育大学教授・天野和孝先生の門下で、化石研究をしてきたので、その成果になると思います。

 私たちも、長年、地質調査に携わり、化石のことも多少は勉強してきましたが、さすがに鑑定となると、まったく手が出ません。本当に形のはっきりとした化石で、○○ですと説明できる程度です。

 ところで、館ケ沢~神封沢のルート・マップをまとめてあるので、図が見づらいかと思いますが、内山層の構造(下部層・上部層、それにかつて駒込層とされていた層準)を理解する目的で作成しました。何度も「再掲」となります。