北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-120

3. 内山川本流(3/3)の調査から

 平成14年(2002)8月4日の調査の続きです。
 私たちは、内山川の本流を歩いているのですが、それが、内山層の基底礫岩層群の層準辺りと、大月層の南限付近に当たるので、足元は、大きな地質学的時間差をまたいで観察していくことになります。モモロ沢の合流点からダム湖までの説明をします。

 

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内山川本流の3 (モモロ沢~ダム湖

 モモロ沢との合流点付近(【図-①】)では、黒色の珪質細粒砂岩だけでしたが、上流へ25m付近では、黒色粘板岩と硬い黒色細粒砂岩の互層となり、滑滝を形成していました。この層準は、大月層と思われます。
 南側の湾曲部(【図-②】)では、下位に黒色細粒砂岩層、礫岩層が現れました。礫種は、チャートや黒色頁岩、珪質砂岩の円礫でした。内山層と思われます。
 北側の湾曲部(【図-③】)では、硬い黒色細粒砂岩層と黒色粘板岩です。走向・傾斜は、N70°W・45°Sでした。大月層と思われます。
 標高830m付近(【図-④】)では、幅1.5mの礫岩層があり、少し上流でも、両岸から川底へ礫岩層が見られました。N50°E・50°SEの走向・傾斜で、下位から粗粒砂岩層/礫岩層/粗粒砂岩層/細粒砂岩層と重なっています。礫種は、珪質砂岩の礫が卓越していました。理解できないのは、最下位の粗粒砂岩と礫岩層の構造を切るように、N20°E・20°Eで、火山砂の多い粗粒砂岩が、位置的には一番下に堆積していました。これらは、内山層の基底礫岩層群と思われます。

 大沼沢との合流点、わずか下流(【図-⑤】)では、暗灰色中粒砂岩層があり、二枚貝の化石を認めました。ツキガイモドキ(Lucinoma sp.)、シラトリガイ(Macoma sp.)、マテガイ(Solen sp.)です。また、水辺の植物の茎と思われる炭化物も含まれていました。この層は、内山層と思われます。
 大きく湾曲する手前から奥にかけて(【図-⑥】)、中粒砂岩層を時々挟んで礫岩層が分布していました。内山層の基底礫岩層だと思われます。砂岩層の中には、二枚貝化石が、認められました。
 湾曲部から次の湾曲部(標高840m付近)まで、約150mほど見通せます。その中間付近から湾曲部にかけて(【図-⑦】)、暗灰色中粒砂岩層が分布し、二枚貝化石が認められました。

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初谷沢合流点(橋の上から)

 

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基底礫岩層(初谷沢合流点)

初谷沢(しょやさわ)が、標高843m(推定)付近で、内山川に合流します。(国土地理院の地図では、橋のわずか上流で合流するように表されていますが、橋工事の関係なのか、今は、橋の下流で、初谷沢に懸かる橋と連続していました。)
 合流点の右岸(【図-⑧】)では、左の写真のような内山層の基底礫岩層が見られました。 間に、暗灰色粗粒砂岩層(層厚15cmほど)を挟みますが、
上も下も礫岩層です。上の礫岩層の方が、大きな礫を含んでいますが、差別的浸食というより、内山川の川底自体が浸食・下刻されていく過程なので、かつては、下の礫岩層は、当時の川底より下に位置していた時代もありました。今は、毎日削られ、特に大水の時は、大きく削られているのかもしれません。

 

 

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初谷沢合流点手前の内山層基底礫岩層群


 初谷沢に懸かるトンネル橋の下をくぐり、初谷沢の湾曲部(【図-⑨】)に出ました。ここでは、明灰色粗粒砂岩層(2m)の上に、基底礫岩層(5m以上)が載っています。さらに、直接観察できませんが、5mほど基底礫岩層の連続部分があるものと思われます。
 下の写真は、全体露頭の中央部を拡大したもので、埼玉地団研の皆さんと調査をした時に撮影しました。
粗粒砂岩層の中にも、花崗岩礫が、わずかですが含まれていました。
 粗粒砂岩層と礫岩層を合わせて、基底礫岩層群として良いと思いました。

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初谷沢入口(2002 11/3)

 

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 内山川本流に戻り、川の大きく南側に蛇行する付近(【図-⑩】)では、黒色頁岩層が見られました。走向・傾斜は、N60°W・20°SWです。この湾曲部に至る地点の中間には、薄く白色凝灰岩層を挟む黒色頁岩層があり、頁岩層から二枚貝の化石が見つかりました。走向・傾斜は、N20°W・20°Wでした。

 ・・・実は、六川・渡辺両氏は、執拗に化石を捜している間、私は、『(私たちもそうフィールド・ネームでも呼んでいる)内山断層が、中央構造線に相当するかもしれない』という、小坂共栄先生(信州大学教授)の説明の方が気になり、右岸の水田の先に広がる東側に見える風景を撮影していました。

 湾曲部の上流には、低いコンクリート製の堰堤がありました。堰堤の右岸側を登った所にも露頭があり、暗灰色中粒砂岩層(N40°W・20°SW)からも、二枚貝化石(シラトリガイMacoma sp.)を確認しました。(【図-⑪】)

 堰堤の上流から、風化すると黄土色となる青味を帯びた暗灰色(凝灰質~火山砂を含む)粗粒砂岩層か、上流部に向けて広く分布していました。

 標高855m付近(【図-⑫】)では、暗灰色中粒砂岩と、黒色頁岩の互層でした。頁岩は、剥離性がかなり強いものです。
 無名沢(神封沢の西の小さな沢)との合流点から20m上流(【図-⑬】)では、暗灰色粗粒砂岩層がありました。その上流部も同様な産状でした。
 神封沢との合流点から25m上流(【図-⑭】)では、粗粒砂岩層の中に不規則な黒色頁岩片が入った層準が認められました。黒色頁岩片は二次堆積だと思われ、特別に珍しい産状ではありませんが、堆積状況の岩相を示す鍵層(key bet)にならないかと期待しています。
 工事用の橋付近(【図-⑮】)の右岸では、暗灰色で凝灰質の粗粒砂岩層が見られました。高さ5m以上の崖となっていました。
 最後に、砂防ダム湖の下流部(【図-⑯】)は、暗灰色の凝灰質粗粒砂岩層が広く分布していました。

 この日の調査では、スタートとゴール予定地の両方に車を駐車しておきました。雲行きが怪しくなる中、急いで乗り込みました。雷鳴は、まだ遠くで聞こえます。
 スタート地点で、帰宅のために自分の車に乗って走り出すと、激しい雷雨となりました。とてもラッキーでした。

 

   【 閑 話 】

 内山川本流にある「仙ケ滝」は、各地の伝説にあるように、美しい悲運な娘が身を投げたという民話が残っている滝です。
 しかし、滝壺(たきつぼ)があってというわけではありません。沢水が、堅い礫岩と粗粒砂岩の互層部の弱い部分を縫うように、流路をみつけて流れ落ちていきます。流水の浸食作用を学習する時、良い教材になると思います。きれいな渓谷というほどではありませんが、三段の滑滝(なめたき)と淵、それに続く清流が見られます。
 ちょうど夏休みなので、親子連れの釣り人と会いました。父親の方は真剣そのものですが、釣りに飽きてきた小学生は、水面に小石を投げ込んで、父親から怒られていました。その光景を見て、私は思わず笑ってしまいました。
 その少し下流では、年配の女性(若いお婆さん)が見守る中、都会から帰省した娘(若いお母さん)と孫(二人の幼児)が、浅瀬の川にダムを作って、水遊びをしていました。二人の男の子にとって、懐かしい思い出の水辺となるでしょう。内山川は、そんな人々に安らぎを与えてくれる人里を流れる清流です。
 (下の写真は、残念ながら内山川本流ではなく、北相木川「箱瀬の滝」の上流部の淵です。)

 

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沢水に親しむ体験

【編集後記】

 平成14年11月2~3日、信州大学教授の小坂共栄教授を中心講師にした地学団体研究会埼玉支部の皆さんの研修会に、小林正昇先生と一緒にお邪魔しました。
 志賀川水系で八重久保層(やえくぼそう)の巡検をしていた時のことです。参加されていた元群馬大学教授の野村 哲 先生の行動を見て、とても感激しました。先生は、調査の傍ら、雑木に絡まり付いた蔦(フユヅタ)を見つけると、手持ち用の小型鋸(のこぎり)で切ったり、鉈(なた)で枝打ちをしたりして、立木から蔦を取り除いていたからでした。蔦とて、必死に雑木に絡まって伸びていくのは生きる為の手段ですが、巻き付かれた木々も大変です。まるで、苦しんで叫び声を発しているのが、先生には聞こえてくるのでしょうか。先生の長年のフィールド調査中もきっと他の多くの山や沢で、蔦に巻き付かれた木々を救出していたのだと思います。

 自然に対する考え方や態度は、きっと自然研究の神髄として、研究結果にも表れてきたのだと思いました。

 

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カラマツに絡まる蔦(佐久市前山)

 思えば、私たちも地質調査という名を借りて、平気で露頭を岩石ハンマーで壊しています。不用意にも一度破壊してしまえば、再現できない自然界の歴史的産物に対して、もっと深い慈愛と畏敬の気持ちを持ち続けなければならないと、その時に感得しました。

 ところで、連日晴天続きで、毎日、畑や土手、道路沿いの草刈りをしていて、はてなブログが中断していました。一応、草刈りの第1回目ローテーションが済んで、『今日の午後は、気温が上がり熱中症に注意しましょう』と言うので、デスクワークとしました。良い骨休みになりました。(おとんとろ)