北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-131

雨川水系の沢

7. 小屋たけ沢~程久保沢の調査から

 森林地図によると、「小屋たけ沢」はそのままの地名です。沢を含む西側の尾根一帯が程久保で、駒倉(こまくら)と区分されていますが、地名を使い、「程久保沢」と呼ぶことにしました。尚、内山川水系の「ホド窪沢」と発音は、まったく同じなので注意してください。(下図【小屋たけ沢~程久保沢のルートマップ】を参照)

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小屋たけ沢~程久保沢のルート・マップ

 平成16年夏休みの8月7日に、小屋たけ沢を詰め、分水嶺の尾根を経てから程久保沢を下る予定でしたが、上流部のブッシュが大変で、標高1120mの張り出し尾根を乗り越えて、沢を下りることになりました。下山後、雨川ダム湖を見下ろして食べた西瓜の味が、印象的でした。
 小屋たけ沢入口付近のブッシュを避け、標高950m(【図-①】)から入りました。玢岩(porphyrite)の露頭が続きました。標高970m付近(【図-②】)では、熱変質した灰色細粒~中粒砂岩層が見られました。

 標高975m付近(【図-③】)では、黒色頁岩層と、粘板岩(slate)層が見られ、N5°W・8°Eでした。
 この少し上流には、幅15cm×長さ50cmのコングロ・ダイク(N80°E・垂直)と、不規則な粘板岩(slate)片が、中粒砂岩層の中に取り込まれている露頭がありました。(【写真-下】)

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粘板岩片が砂岩中に入る【図-③】

 

 そして、標高1000m~1010mにかけて、5つのコングロ・ダイクが観察できました。(【図-④】)
 周囲の基盤岩は、黒色泥岩層や暗灰色細粒砂岩層で、ほぼEW・緩い北落ち(推定、5°N)です。
これに対して、図のような形態のコングロ・ダイクが、ありました。 下流側の露頭から順番に・・・
(ア)十字に交わるタイプ:板状の礫層が、交叉するようにして泥岩層に貫入している。《写真A地点》表面にコケ等が付いて、見えにくいが、礫層は垂直貫入している。

(イ)最も頻繁に見られる小規模タイプ:表面は棒状に見えるが、地下にも層状に高角度で貫入する。

(ウ)軟着陸タイプ:基盤の中への貫入は薄く、表面に広がっている。《写真C地点》かつては西側のものと繋がっていたが、浸食で開削された間が小滝になった。

(エ)湾曲していたり、形が不規則なタイプ:周囲は乱されていない。

(オ)大型タイプ:基盤岩への貫入の向きにより、高さ・長さ・幅・広がりなど、見え方が強調される。露頭の数は少ない

 

 

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標高1000m~1010m付近の露頭(スケッチ)

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直交するように交わる (A付近)

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細長い板状(ブロック) (C付近)


 標高1010m付近(【図-⑤】)で、玢岩の岩脈が見られ、標高1020mでも同様な玢岩が見られました。
 標高1040m二股で昼食をとった後、1060m二股から左股に入りました。すぐにブッシュ漕ぎが大変になってきたので、沢は最上流部まで詰めないで、途中から南西へ張り出している尾根を越えることにしました。尾根の標高1120m付近で、凝灰角礫岩(tuff breccia)が見られました。(【図-⑥】)

 尾根を下って、程久保沢の1050m二股を確認し、標高1040m付近(【図-⑦】)では、熱変質した灰白色中粒砂岩層が見られました。

同様な砂岩層が、標高1030m・1020m二股まで、点在します。

 そして、2つの沢が次々と北西から流入してくる標高1000m付近(【図-⑧】)では、花崗閃緑岩(granodiorite)の岩体の一部が見られ、周囲は熱変質した灰白色泥岩層でした。温泉の兆候があり、かつての壊れた施設(数寄屋風の建物)がありました。ちなみに、地図に記載されている程久保沢右股の「温泉」は現在はありません。
 標高990m付近(【図-⑨】)では、熱変質した灰白色細粒砂岩層が見られ、玢岩の岩脈が認められました。
 標高980m(【図-⑩】)では、再び花崗閃緑岩が、幅5m×長さ15mの大露頭で見られました。ここでは、花崗閃緑岩と玢岩の両方が見られました。全体情報から、貫入時期は、花崗閃緑岩の方が先で、玢岩が後です。

 

 標高972m付近(【図-⑪】)では、熱変質した灰白色泥岩と粘板岩(slate)が見られました。

 走向・傾斜は、N50°E・20°SEです。東隣の小屋たけ沢の(【図-③】)に対応すると思われます。観察した露頭の産状から推理すると、黒色泥岩が熱変質した灰白色泥岩の熱源は玢岩で、粘板岩(slate)の方は、もっと長い時間と圧力、それに高温状態を保ち続けられる花崗閃緑岩(granodiorite)だったのではないかと思いました。

 

 標高960m付近(【図-⑫】)では、玢岩の岩脈が、標高948m付近(【図-⑬】)では、熱変質した灰白色中粒~粗粒砂岩層が見られました。
 標高930m付近(【図-⑭】)と、小さな沢が合流する標高910m付近(【図-⑮】)では、共に玢岩の岩脈が見られました。
 隣り合う小屋たけ沢と程久保沢は、粘板岩の見られる層準が対応していると考えていますが、小屋たけ沢でのコングロ・ダイクが、程久保沢で見られなかったのは残念でした。石英閃緑岩の貫入は、温泉の記号付近の地下を中心とした範囲と推定されます。小規模な玢岩の岩脈は、両方の沢の随所で見られました。


 【 閑 話 】

 程久保沢の標高1030m付近(【図-⑦】の少し下流)と、965m二股の少し上流部(【図-⑪】の少し下流)の2カ所で、ツキノワグマの痕跡を見つけ、ドキドキしました。 標高1030mでは、ウワミズザクラの枝を何本か倒した形跡があり、近くの土に爪のある足跡と糞(フン)が、残されていました。

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ウワミズザクラ(春・花)

 ウワミズザクラ(上溝桜)は、バラ科の落葉高木です。雄しべが多くて、花弁より遙かに長いので良く目立ちます。遠くから見ると、花全体が、「ショウマ」の花のように見えます。
 木の幹を見ると、桜の木肌と似ているので、名前に納得します。
どうも、この果実をツキノワグマが好むらしい。

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ウワミズザクラ(夏~初秋・果実)

【編集後記】
 この沢(「小屋たけ沢」)では、様々なタイプのコングロ・ダイクが観察できました。

 かなり後半の章で、コングロ・ダイクの成因について検討しますが、ヒン岩との関係を疑いました。また、どうして、タイプの異なる産状なのかと疑問は深まるばかりでした。

 ところで、本文中の「閑話」に載せた写真は、借り物の写真で申し訳ありません。

現場は、ツキノワグマが、ウワミズザクラの木に乗って、枝ごと倒すようにして食べたと思われる状態でした。証拠写真は、捜しましたがみつかりません。

 同様に、かつての温泉の建物らしいのも撮影しましたが、無いのは、今振り返ると、残念です。写真を撮り放しにしないで、いつも、整理しながら消去してしまう私の処理方法も、時と場合によっては、後で欲しくなって、後悔します。(おとんとろ)