北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-157 

      第Ⅹ章.コングロ・ダイクの成因

 

5.成因の考察 

 コングロ・ダイクの成因について、岩石学的特徴から考えて見ると、礫岩の通常な堆積過程ではあり得ず、堆積物の供給に関して何か特別な条件が必要です。
 そこで、さらに様々な可能性について、考えてみようと思います。

 

5-(1) 玢岩(porphyrite)の貫入との関わり 

 内山層の広い範囲で熱変質や熱変成があり、黒色泥岩や黒色頁岩は粘板岩や、光沢のある灰色泥岩になっていたり、また、細粒砂岩は灰白色に、中粒砂岩は灰色に、それぞれ変質して、緻密な組織になっています。

 ただし、熱変成の熱源として、玢岩では不十分なのか、大規模には石英斑岩(Quartz-Porphyry)の貫入による熱変成が多かったです。この事実から、熱源となったヒン岩岩体の貫入は、明らかに内山層堆積後の出来事です。
 さらに、「3.コングロ・ダイクと熱変成」で示したように、ヒン岩貫入がコングロ・ダイクの形成より、後であることは証明されました。

 一方、コングロ・ダイクとヒン岩岩脈の地表露出分布が近接している場合が多いことから関連性を疑い、本格的なヒン岩貫入に先立つ熱水の浸入段階で、内山層堆積物を破壊して、岩塊を礫のようにしたのではないか・・・・という説明もありました。

 チャート礫が無く、元々、周囲の堆積層の中でも多い黒色頁岩や砂岩が、礫にされたとしています。この考えに基づけば、コングロ・ダイクまでやってきて、抜けていった熱水の痕跡があっても良いはずです。小さな棒状なものは可能性もあるかもしれませんが、大規模コングロ・ダイクでは、無理だと思います。さらに、コングロ・ダイクと周囲の内山層プロパーの礫種が異なることや、周囲が乱されていないことなどの理由からも、明らかに無理のある考え方です。

 


5-(2) メタン・ハイドレート(methane hydrate)説

 御指導をいただいている上越教育大学の天野和孝先生が、「メタン・ハイドレート説というのはどうですか?」と、どこまで本気なのかわかりませんが、言われました。

 海底で地震が発生した折に、海上が燃え出す現象が、稀にあります。海底の有機物から作られたメタンガスが、低温・高圧条件での固体状態から、地震によって生じた亀裂を通じて噴出し、一気に昇華する時の爆発的な膨張力で、付近の地層を吹き飛ばす現象が知られています。
 営力としては十分なような気がします。しかし、芸術品とも感じられる周囲の泥岩とのシャープな境目を考えると、よほど礫岩層だけが丈夫でないと、全体は粉々に粉砕されてしまうのではないかと思います。営力の可能性としては面白いと思いますが、やはり説明しにくいことは、そもそも周囲に存在しない「礫の出所」です。また、メタンガスが移動したとすれば、周囲の堆積物に形跡が残っているはずですが、認められません。

【 閑 話 】

  【メタン・ハイドレート(methane hydrate)】

 水素結合により、水分子が作るクラスター構造の中に、ゲスト分子(メタンやCO2、THFなど)を取り込んだ氷状の結晶のことです。1気圧の常温では不安定で、火をつけると燃え上がります。低温・高圧下で安定で、永久凍土の中や水深500m以深の海底地層中に大量に存在することが知られています。その埋蔵量は、天然ガス埋蔵量の数十倍と見積もられ、地球環境にも優しいエネルギーであることから、次世代のエネルギー資源として注目されています。

 海底からメタン・ハイドレートを掘削する技術の研究が進められていますが、海流の影響を受ける外洋では困難が伴います。一方、気球温暖化ガスである二酸化炭素をハイドレートにして、海底地下に貯蔵する技術も検討されています。いずれにしろ、掘削・回収技術や、資源工学・化学工学的な見地から自由に扱えるためには、課題があります。


5-(3) 砕屑岩脈

 (クラスティック・ダイク clastic dike )説 

 元群馬大学教授の野村 哲 先生に、釜の沢左股林道のコングロ・ダイクを見ていただく機会がありました。「これは、下からということはないでしょう。堆積盆の隆起に伴った亀裂に、礫が入る現象は知られています。しかし、専門に研究した人はいないので、ぜひやってみてください。」と激励されました。(平成14年11月3日) 

 「第Ⅱ章コングロ・ダイクとは何か?」で紹介したコングロ・ダイクの、それぞれ最大値を採用すると、礫岩体は幅1.1m、長さ20m、深さ8mとなり、優に175m3  以上の層状の礫塊になります。
 仮に石の密度を2.7g/cm3  とすると、重量は465tです。しかし、驚く数値ではありません。
 堆積岩層の膨大な重量と比べれば、コングロ・ダイクの質量は、極めて微々たるものだからです。それに、固結する前の堆積物は、流水で運ばれる場合でも、砂や礫の小さな粒子で移動するので、特別な営力の必要はありません。少しずつ積み重なってきたからです。
 だから、堆積盆の隆起に伴って生じた割れ目に、礫の一粒ずつが落ち込むようにして固まったとすれば、十分に説明できるような気がします。

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  しかし、割れ目の中に礫だけが入り、周囲には礫がまったく残らないというのは、極めて不自然なことです。寧ろ上の【説明図】のように、割れ目に入れなかった礫が、たとえわずかでも分布しているはずです。ところが、例えば、釜の沢左股林道の露頭では、コングロ・ダイクの上は泥岩層が、「ふた」をしたように覆い、礫岩層だけが周囲と完全に異質な構造となっているのです。つまり、コングロ・ダイクは、砕屑岩脈の成因として考えられている堆積メカニズムと、本質的に違うのだと思います。
 また、コングロ・ダイクの礫の長径配列を見ると、礫岩層は、かつては正常な堆積をしていたと考えられる露頭もあります。さらに、貫入した泥岩層との境界面がシャープで直線的であることから、地層としてかなり固結が進んだ状態であったことが予想されます。                        
 つまり、礫は一粒ずつ運ばれたのではなく、壊されない程度に固結した層状の塊として運搬されてきたと考えられます。

 そうなると、先ほど試算した465t を越える重量の意味は、無視できません。かなり力強い営力が必要なはずです。営々脈々と作用する力ではなく、ある程度一気に、礫岩塊を移動させる力です。その営力として、どんなことが考えられるでしょうか?


【 閑 話 】

   砕 屑 岩 脈(さいせつがんみゃく)

 地層や火成岩体と交差する板状ないし脈状の岩体。構成物質により、砂岩脈・粘土脈。大小様々だが、まれに数kmの延長をもつ。 ①開口した亀裂を崩壊物質が埋めたもの(水平の粒子配列がある)/②クイック・サンド現象で、主に砂が埋めたもの(壁面に平行な粒子配列がある)・液状化による砂や泥の噴出/③火成活動に伴うもの/④断層運動に伴うもの等が考えられる。※岩脈群として、平行・雁行・共役などの規則性が見られるものがある。→このため、私たちも走向・傾斜は、注意して調べてある。

 

 
5-(4) 地震時の液状化現象説 

 前述の砕屑岩脈の中で、地震の時に発生する「液状化」現象により、未凝固堆積物や、地層の弱線・割れ目から、砂や泥が噴出することがある。この時、噴出するものによって、砂や泥の岩脈ができる。

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タービダイト中の砂岩岩脈

 【写真・上】は、高知県室戸半島のタービダイト(混濁流により堆積した地層・古第三系)の中に見られる砂岩岩脈です。地震の揺れによって発生した砂の「液状化現象」で、砂と水のジェット噴水流が、海底堆積物を突き破って貫入し、その後で固結・石化して、周囲の岩石と一緒に地表に現れたものです。
 周囲の地層の固結化が、どのくらい進んでいたかで、状況は異なると思いますが、現在の地震発生時でも見られる現象です。

 【写真・下】は、和歌山県田辺湾の中新世中期の砂泥互層で見られる泥岩岩脈です。地震などの地殻変動があり、砂泥互層(未凝固か割れ目かは不明)を、泥水のジェット噴水流が貫入しました。その後、固まって、周囲の地層と一緒に地表に現れたものです。

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砂泥互層中の泥岩岩脈

 この砂と泥を、礫に替えて説明すれば、コングロ・ダイクも説明できそうです。形態も、基本的には良く似ています。ところが、次の3つの理由で、難しい。無理の結論です。

液状化現象は、礫だと起こりにくい。粒子の間に地下水が入ることで、流動化するが、隙間の大きさが関係しているらしい。

 ② 一般的に泥や砂に比べ、礫は極めて量的に少ない。しかも、礫堆積物の直上に泥や砂の堆積物が載るのは浅瀬で、ジェット水流を生むような加圧条件になっていないと思われる。

 ③ 内山層の場合、供給する礫自体が無い。礫は極めて限られた層準にしかない。   (加えて、チャート礫を欠くという状況は、つくれない。)

 

 【 閑 話 】

  北海道・古丹別層の礫岩岩脈(シル)

 礫岩岩脈をインターネットで検索中に、その内容と共に、私には懐かしい幌加内町・朱鞠内(しゅまりない)川の話題が出てきた。学生時代、スキーツアーで早春の残雪期、暑寒別岳から雨竜沼湿原を越えた所にある河川の名前である。
 川村信人さん(日本地質学会・北海道支部)によると、朱鞠内川支流の石油沢川では、古丹別上部層が分布し、タービダイト層に、層理面に斜交する平板状の砂岩脈が見られると言う。「砂岩脈内には、ラミナ状構造や母岩剥ぎ取り構造などが、観察される」とのこと。(【写真・上】など)

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タービダイト中の砂岩岩脈

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稀に、礫岩岩脈(シル)


 この他に,礫サイズの砕屑物からなる岩脈(シル・sill)も見られる。【写真・下】
 「母岩の層理面に平行なシルから分岐・派生する構造も観察され,砕屑物岩脈の成因やメカニズムを考える上で、興味深い」とまとめている。

 私の知りたい肝心な成因やメカニズムは、わからないようで残念だが、砂岩岩脈と同じ条件の地層で、礫岩岩脈がみられるという情報には、希望が湧いてくる。
                 
                   

 編集後記

 「はてなブログ」の3年目となります。先月の3月1日は、契約「プロ」に変更してから丸一年が経過しました。それを契機に、せめて週に1~2回は載せようと思いましたが、ついつい・・・の世界でした。

 佐久の地質調査物語は、間に「睦月・如月・弥生」の俳句が入りましたので、久しぶりの復活です。いよいよ、「内山層」も終盤を迎え、特に「コングロ・ダイク」の成因についての考察が始まりました。

 次回は、『コングロ・ダイクは、混濁流によるものではないか?』と気づき、その証拠集めの場面からスタートです。  ・・・本文の後半で紹介したエピソードのように、各地の堆積層の中で、堆積岩(細砕物)からなる岩脈の産状は知られています。ただ、どうも私が問題にしているものとは、少し違うようなのです。それ故、悩みます。

 ところで、今日は一日雨降りで、家の中に籠もっていますが、明日は、天気が回復してくるので、ジャガイモの種芋(10㎏・北海道産)を伏せる計画でいます。

 既に、畝だけは作ってあるので、2時間もあれば済みますが、次第に、毎日の生活の中の散歩の時間が、農作業に移行しつつあります。そんな中、天気図描きと、日記帳に「ニュース・国際」として、新聞・インターネット情報からの話題を記入する時間は、確保しています。

 今は、連日、新規コロナ感染者数(世界・国内・県内・市内)チェックと共に、やはり、ロシア軍のウクライナ侵攻(戦争)の話題です。新聞の切り抜きも張りつつ、怒りと空しさと、悲しみを抱いています。

 信濃毎日新聞の「信毎・俳壇」に次のような俳句がありました。

 葉牡丹の 崩れ戦禍の 傍観者 (西田和彦さん・佐久市

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葉牡丹(はぼたん)・・・冬の季語

 戦禍とは、言うまでもなく「植物の枯れた様」ではなく、ウクライナ問題だとわかります。どうしようもなく、傍観している作者の気持ちに共感しました。

 今、私は、5月連休前に奉納する「奉燈俳句」に、戦禍が治まると共に、実はそれ以上に、ウクライナの人々の戦後の復興が達成できることを祈念した内容が作れないかと考えています。(ただ、規模や深刻さに差はあるかもしれませんが、同時に、ミヤンマー・エチオピア・イエメン・中国ウイグル・世界の難民問題等、そちらのことも決して忘れてはならないことでしょう。)

たとえ傍観者ではあっても、無関心ではいられません。(おとんとろ)