北海道での青春

紀行文を載せる予定

鳶(トビ)三題(睦月の句)

 ① 鳶の眼を カイトと紛ふ 北颪(きたおろし)

 ② 鳶群れて 帰巣の舞や 天高し

 ③ 冬晴れの 村を哨戒(しょうかい) 鳶の笛

 

 1月の句会の題材を捜そうと、東京電力・杉ノ木貯水池の氷雪の湖と水鳥を見に出かけた。人工の浮島に、ガン・カモ類がたむろしている。未凍結の水域を泳いでいる鳥は厳しい季節風の中で流されていく。上空を見上げると、同じ位置に鳶が宙に浮いたまま、揺れていた。この光景が印象的で、今月は鳶(トビ)をテーマにしようと思った。

 驚いたことに、鳶は季語ではなかった。

 

 【俳句-①】は、強い季節風の中、鳶が宙に浮かび、奴凧(やっこだこ)のように左右に翼を揺らしていて、誰かが挙げているカイト(西洋凧)かと見ると、鳶の眼と私の目の視線があって、緊張した印象を詠んだ。場所は、杉ノ木貯水池である。

 ヒトが、他の動物と比べて違うことは数多いが、「目に瞳と白目がある」ことは特徴のひとつである。瞳の色は人種によって異なるが、白目は人類のみで、類人猿などと比べてみれば一目瞭然である。白目のある理由は、人類が狩りをする時のアイ・コンタクトや情感を読む為だろうと言われている。要するに、目は口ほどにものを言うということだ。

 私が人工のカイトと見間違えた鳶だが、高度が低かったせいもあり、鳶の眼がしっかりと見えた。眼球が動く様子まで見えた。

 「画竜点睛」ではないが、眼を意識したことで、無生物と完全に分離され、北北西の風を受けて立つ、冬を生き抜く生き物の息吹が伝わってきた。

 季語の「北颪(きたおろし)」を、句会の先輩から教えてもらい使うことにした。カイトは、凧のことなので、冬の季語かなと思いつつも、人工物・無生物という意味合いで使うことにした。

 

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トビの滑空

 【俳句-②】は、秋の夕暮れ、鳶が群れてねぐらに帰って行く様子を詠んだ。冬でないのは、目撃した事実を優先した。

 帰巣する時、烏(カラス)は、せわしく羽ばたき、山のねぐらを目ざすが、鳶(トビ)は、旋回しながら、まず高度を上げる。上昇気流や向かい風を巧みに利用して、大空を限りなく登る。晴れた日の青空に点になるぐらい上昇することもある。それから、目的の巣へ一直線に滑空する。この滑空を見ていると、本当に胸の透く思いがする。 群れた鳶の旋回上昇は、これから帰巣するのを、互いに競うような舞いなのだろう。

 ところで、一時期、私の散歩コースに、鳶の群れのねぐらがあって、楽しみにしていたが、いつか居なくなってしまい残念である。

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トビの群れ・乱舞

 

 

 【俳句-③】は、冬晴れの空の上から、鳶が餌を探しながら旋回している時、
「ピーヒョロロ」と、鳴き声を発して行く様を呼んだ。鳴き声は、「鳶の笛」という表現があるらしい。

 折しも平成30年12月20日、能登半島沖の日本海で、海上自衛隊のP-1哨戒機に、韓国海軍の駆逐艦「公開土大王」から火器管制レーダーが照射されるという事件が起きた。この事実を韓国が認めない為に、1月になっても大騒ぎとなっていた。

 私は、村が日本海で、鳶は哨戒機、鳶笛は潜水艦探査のレーダー照射のような気持ちになっていた。それにしても鳶笛は、どんな目的で発しているのだろうか。

  もし、鳴き声が地上にいるノネズミなどの動物に聞かれてしまえば、寧ろ餌を取り逃がす原因にもなるはずである。そんなことを考えながら、鳶の飛行の様子を眺めていた。

 

【編集後記】

  「トビ・三題」としたのに、カラスの話題から始める。

 『おい、あいつら、滑り台ごっこで遊んでいるんじゃないか?』と、植物や鳥に詳しい同僚が、理科室の外のカラスたちの行動を見ていて、私に教えてくれた。

 切り妻屋根の上に、太陽光を利用した温水器が何個か設置してあり、そのガラス板の上を滑りながら、斜面の後半で飛び立つ(離陸する)のである。

 折しも、南側に面した所で、南風が緩やかに吹いているので、ガラス板に当たると上昇気流になる。羽を広げて滑っていくと、自然に舞い上がるようになるらしい。二羽のカラスが、交互に何度も何度も繰り返している。ちょうど、二人の幼児が、滑り台で交互に滑って遊んでいる光景を連想してしまう。

 カラスは、鳥類の中でも極めて優秀な部類と言うので、擬人化しても不自然さのないような滑り台遊び、はたまた「プールのウォータースライダー」のような遊びを愉しんでいたのだと考えた。

 これに対して、トビは、あまり無理して羽ばたかなくても、上手に上昇気流をとらえて滑空できる。さすがだと思う。

 ところが、トビがカラスから攻撃されて逃げ回る姿を目撃することがある。多くは2羽以上のカラスが、1羽のトビを執拗に嘴で突つき、追い払う。餌の縄張り争いなのかなと思うが、『猛禽類なのに、トビって案外、弱いんだ』と思い、優雅な滑空・旋回飛行の格好良いイメージが薄れてしまうこともある。

 でも、鳶(トビ)・・・子どもの頃から「トンビ」と呼び親しんできた鳥は、大好きです。