北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-106

富沢・八重蒔沢・温泉の西側沢の調査から

 平成13年度の天野和孝先生をお迎えしての調査は、北相木層の化石を対象としましたが、しばらくコングロ・ダイクを中心に話を進めたいので、所沢の西側の沢の様子も見てみようと思います。

 

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富沢付近のルートマップ

 

6 富沢の調査から

 所沢の西隣の沢が、富沢(とみさわ)です。この沢の調査に、私は参加していないので、六川先生の資料で説明します。
 神社の西側で、玉葱状風化の粗粒砂岩層と礫岩層(最大5cmφ、チャート・粘板岩・花崗岩の礫)の走向・傾斜はN75°W・80°Sです。その少し上流で、基底礫岩層と思われる巨礫を含む層準がありました。川が湾曲している為、こちらの方が下位となる。チャート礫も多いが、花崗岩礫(最大90×100cm)や粘板岩礫(20×30cm)が目立ちました。後日、調査した相立館の北西、内山川の本流で確認した内山層の基底礫岩層の延長に当たると思われます。

標高802m付近で、灰色中粒砂岩と黒色頁岩の互層に凝灰岩層(10cm)が挟まれていました。走向・傾斜は、N75W・10°Sです。(【図-①】)
 二股の手前、標高808m付近で、黄鉄鉱(pyrite)の入る黒色泥岩層に、幅10cmのコングロ・ダイクが認められました。(【図-②】)
 その上流では、熱変質を受けたと思われる明白色泥岩層(黄鉄鉱が入るものもある)が、見られました。
 標高875m付近では、熱変質を受けた泥岩層にコングロ・ダイクが認められました。礫の最大は、20×15cmで、亜角礫でした。(【図-③】)

 標高885~895mの間に、熱変質を受けた泥岩層の中に、コングロ・ダイク露頭が4箇所認められました。下流側から、幅は、30・5・10・7cmで、長さはいずれも1m未満の小規模なものでした。(【図-④】)

 


7 八重蒔沢の調査から

 相立館の対岸にある内山鉱泉のある沢が、八重蒔沢です。
 内山鉱泉の裏(南側)、標高795mで、暗灰色粗粒砂岩層(N70°W・6°S)が見られました。(【図-①】)それから、堰堤を越えます。堰堤の下では、黒色頁岩層でしたが、上では黒色泥岩層でした。
 標高810m付近では、、黒色泥岩(主)と灰色砂岩(従)の互層で、薄い凝灰岩層を3枚挟んでいました。一部は黒色粘板岩(slate)となっていました。(【図-②】)
 標高820m付近では、灰色中粒砂岩層(層厚30cm)の中に、黒~暗灰色砂岩塊が含まれていました。何れも長径が顕著な紡錘形(長径最大10cm)や、形の崩れた塊があり、奇異に感じました。一旦堆積した後の二次堆積で取り込まれたのかもしれません。ただ、長径の向きは、堆積当時の重力方向や流れに沿うはずなのですが、かなり不規則です。走向・傾斜は、N60°W・50°SWでした。(【図-③】)
 標高830m付近が鉱泉の源泉のようです。砂優勢な砂泥互層部分は、灰白色になって、熱変質を受けていました。
 865mの二股を右股に入り、標高870m付近では、砂優勢な砂泥互層は、灰白色に熱変質を受けていました。この沢では、コングロ・ダイクは認められませんでした。

 


8 温泉の西側沢の調査から

 無名沢ですが、温泉(鉱泉)の西側にあるので、標記の呼び方をすることにしました。
 標高810m付近では、黒色泥岩と灰色砂岩の互層部に3枚の凝灰岩層が挟まれていました。露頭幅は、下位から20・30・10cmでした。N70°W・70°Sの走向・傾斜から推測すると、実際の層厚は見かけの9割ぐらいとなるので、かなりな厚さです。すぐ東隣の八重蒔沢にも同様に3枚の凝灰岩層が認められたので、連続していると考えて良さそうです。(【図-①】)
 815mASL合流点付近は、黒色泥岩層の連続露頭でした。ただ、割って新鮮な面を見ると、かなり砂質で暗灰色の細粒砂岩と呼ぶべきかもしれません。この地域の黒色泥岩層は、全体的に砂質なので、基準をやや曖昧にしています。(【図-②】) 

 標高840m付近から、志賀溶結凝灰岩の転石が急に目立つようになります。そして、標高850m付近では、志賀溶結凝灰岩が崩れて、内山層を巻き込んだような露頭がありました。異常に風化の進んだ岩石や、元は内山層と思われる泥岩や砂岩が、モザイク状に入っていました。(【図-③】)
 
《溶結凝灰岩(welded tuff)の産状》
 高温の火砕流の内部では、熱と荷重で、含有物が押しつぶされて再結晶化することがあります。内容物の角礫や軽石が、また、この露頭の場合は、黒曜石(黒い部分)が重力方向につぶされて、扁平になっています。
 景勝地・内山峡の断崖は、風化浸食に耐えた「溶結凝灰岩」で形作られています。
 温泉の西側沢の崖も、多くは溶結凝灰岩ですが、角礫凝灰岩や凝灰角礫岩もありました。

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香坂川支流第3沢1110mASL(崖からの転石)

  【編集後記】
  佐久地方に分布する内山層は、東西方向の広がりより、南北方向への広がりが大きく、河川が東から西へ、先は千曲川へと流れているので、支流の水系ごとに分布域を区別してあります。

 北部域・内山川本流での西側への分布域は、今回、報告した「温泉西側沢」が、最終露頭です。この後、観察した順番通りではありませんが、内山層化石が豊富に出ることで有名な「神封沢」や「細萱林道の沢」などへ、さらに、中部域(雨川水系や谷川水系)~南部域(余地川水系・抜井川の北側)へと、展開して行く予定です。

 ところで、当時は、内山層だけを対象としていたので、詳細な観察を省いてしまいましたが、今年(令和3年)3月に、定年退職後も精力的に上田市東御市一帯の、溶結凝灰岩を研究されている方に、上田市丸子地域の地質を案内していただく機会があり、志賀溶結凝灰岩の特性や年代に興味が湧いてきました。また、後日、話題にしていきたいと思います。(おとんとろ)