北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-117

4. 館ヶ沢の調査から

 平成12年9月10日(日)の午後は、細萱林道の沢の調査の後、館ケ沢(たてがさわ)別荘地の橋の下から沢に入りました。
 一軒目別荘がある、標高960m付近では、塊状の灰白色泥岩層(砂質シルト岩)で、N40°W・20°SEでした。特徴的な成長肋のある二枚貝・ツキガイモドキが認められました。(【図-①】)
 標高970m付近では、灰白色泥岩(主体)と黒色頁岩の互層が、ずれているので目視できる小断層だと思われます。二枚貝化石を含みます。互層部分で、N80°W・5°S(上流側)と、N40°W・18°S(下流側)のデーターを得ましたが、全体を代表すると思われる後者の測定値を採用しました。(【図-②】)(唐沢Location2)
 別荘の庭にバーベキュー設備がある標高980m付近で、灰白色泥岩(シルト岩)の中に、凝灰岩層(10cm)が入り始めました。(【図-③】)
 標高985m付近から、泥相から砂相へと変わり始め、凝灰質の中粒~粗粒砂岩が主体となりました。
そして、標高1000m付近の左岸側(西側)の崖(【図-④】)では、厚い砂泥互層が見られました。N80°E・20°Sと南傾斜です。下位から、5層準の互層が観察でき、黒色頁岩層(2m)/凝灰質粗粒砂岩層(2m)/黒色頁岩層(5m)/粗粒砂岩層(3m)/黒色泥岩層(2m)と、全体で14mほどの崖が見られました。
 その上流、標高1010m付近(【図-⑤】)では、中粒~粗粒砂岩層の中に何枚かの薄い(5~10cm)凝灰岩層が挟まっていて、挟みの部分で、EW・20°Sでした。
 沢の曲がり、標高1020m付近(【図-⑥】)では、凝灰質の粗粒~中粒砂岩層の中に、ラミナ(lamina 葉理)が認められ、風化面では縞模様(ストライプ)が顕著でした。標高1029m二股付近まで、粗粒砂岩層が続きます。
 右股沢を進み、標高1050m付近(【図-⑦】)では、凝灰質粗粒砂岩層に凝灰岩層(層厚5cm)が挟まっていました。明らかに青緑色を帯びたもので、緑色凝灰岩としても良いかもしれません。この後、沢は標高1070m二股で伏流しました。左股沢を詰めて、林道に出ました。
 林道(【図-⑧】)で、ゲンブ岩質溶岩(basaltic lava)を見つけました。
 林道(【図-⑨】)で、アンザン岩質溶岩(andesitic lava )を見つけました。
 林道(【図-⑩】)で、軽石凝灰岩(pumice-tuff)を見つけました。
 館ヶ沢へ林道を使って下山中、林道の標高1050m付近で、黒色泥岩層を挟む凝灰質粗粒砂岩層があり、境でN70°E・15°Sの走向・傾斜でした。(【図-⑪】)

ダム湖周辺の様子 》
 内山川の上流にあるダム湖周辺は、平成11年度に調査が行われています。(六川資料)
 ダム付近は、灰色~灰白色泥岩層(砂質シルト岩)が連続して見られ、ダム湖下流の二股から右股沢へと続いています。(唐沢Location -2と3)
 標高1000m二股付近で、凝灰質粗粒砂岩層が現れます。ここら辺が、泥相から砂相へと転換する地点で、館ヶ沢の標高985m付近に対応すると思われます。

 

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(再掲)館ケ沢~神封沢付近のルート・マップ


5. 館ヶ沢付近の化石

 当委員会に所属していた唐沢 茂 (からさわ しげる)先生が、平成10~12年度にかけて、前述の「細萱林道の沢」をはじめ、周辺地域の8箇所で採集した209個体の化石を整理して、『内山層産化石貝化石』と題して、佐久教育(第36号・平成12年度)に発表しています。内容の全ては紹介できませんが、化石についてまとめた内容と代表的な化石の説明を以下に載せました。
 全部で、27種類の貝(二枚貝19種類・巻貝8種類)を識別しましたが、種名まで同定できたのは、13種(二枚貝8種・巻貝5種)でした。内訳は、以下の「内山層産貝化石」のリストです。

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内山層産出の貝化石 (唐沢 茂 )

    《化石採集場所》
Location-1:館ヶ沢「ダム湖」の下流、標高935m付近(橋の南50m)

Location-2:館ヶ沢(本流)の標高970m付近

                                  (報告:館ヶ沢の【図-②】)
Location-3:細萱林道の沢、標高960m付近
                (報告:細萱林道の沢【図-①~②】)
Location-4:ワチバ林道の沢の標高965m二股付近
             (報告:ワチバ林道の沢【図-②】)
Location-5:大沼沢(本流)の標高940m付近
            (報告:大沼沢【図-⑥地点のわずかに下流】)
Location-6:大沼沢(本流)の標高870m付近
            (報告:大沼沢【図-②と③の間】)
Location-7:内山大橋の東側にある「草笛ドライブイン」の南側、

                              国道脇露頭、標高1010m付近(ちなみに、現在、                                                        草笛ドライブインは営業していません。)
Location-8:国道254号線の群馬県側、10号橋付近

 

《 化石産地と産状 》

 8産地(Location-1~Location-8)より、【内山産貝化石】の表で示す貝化石を識別した。
 貝化石は、灰白色の砂質泥岩(シルト岩)より散在して産出する。
 二枚貝は、合弁のものが多く、離弁の二枚貝も殻表は摩耗していないものが多い。
また、巻貝の殻口部も残っている。Loc.6からは黒色の泥岩より殻が溶解した離弁の二枚貝が、5個体得られたが、やはり殻表や咬歯はよく保存されている。したがって、これらの産地における貝化石の産状は自生的であると考えられる。
 なお、貝化石の種の同定は、上越教育大学の天野和孝助教授・・・・・〔*注-①〕のご指導・助言のもとに行った。

 

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内山層産化石(平成12年度・佐久教育)

 

【図版1】Solemya tokunagai Yokoyama
「トクナガキヌタレガイ」(産地;草笛ドライブイン横)
【図版2】Yoldia(Orthoyoldia) sajitattaria Yokoyama
 「ユナガソデガイ」(産地;大沼沢1080mASL転石)
【図版3】 Portolandia(Portolandella)  watasei (Kanehara)
 「ベッコウキララガイ」 (産地;草笛ドライブイン横)
【図版4】Macoma izurensis(Yokoyama)
「イズラシラトリガイ (産地;細萱林道の沢)
【図版5】Macoma optiva(Yokoyama)
「ダイオウシラトリガイ  (産地:舘ケ沢)
【図版6】Turritella fortilirata  chikubetsuensis Kotaka
 「チクベツキリガイダマシ」  (産地;舘ヶ沢)
【図版7】Euspira meisensis Makiyama
「メイセンタマガイ」(産地;細萱林道の沢)
【図版8・9】Acirsa watanabei Kanehara
 「オホーツクイトカケガイ」(産地;舘ヶ沢)

*スケールは、全て1cm
*クリーニングと撮影;唐 沢  茂


〔*注-①〕当時は准教授でしたが、その後、教授および副学長(平成28年)

 

《 貝化石についての説明 》

(1)Macoma izurensis(Yokoyama)「イズラシラトリガイ」【図版4】

 殻は長卵形で膨らみは弱い。殻頂は中央より、やや後方に位置している。前端は丸く、後端は細くなり、わずかに右に曲がる。殻頂から後方へ弱いひだがある。現生種の「ゴイサギガイ」(Macoma tokyoensis Makiyama)は後背縁が直線状であり、後端がより細くなることで本種と区別される。
本種は、中新世初期の滝の上層(北海道)、中新世中期の中山層(福島県)、福田層(宮城県)などからの報告がある。

 

(2)Macoma optiva(Yokoyama) 「ダイオウシラトリガイ」【図版5】

 殻は中型で卵円形。殻頂はほぼ中央で、後方へ弱い褶が出て多少右に曲がる。前縁は
丸くよく膨らむ。左右の殻の形が異なり、右殻の方がより扁平である。殻高/殻長比は、
78~92%程度の変異をもつ。(別表)
 本種は、日本各地、韓国、樺太カムチャッカ、アラスカの中新統から産出報告がある。
本調査地域からはMacoma属が多産し、上述の2種のほかに漸新統の浅貝層(福島県)から報告されているMacoma asagaienaia Makiyama、 Macoma sejugata Yokoyama
(アサガイシラトリガイ)や現生種のMacoma incongrua (V.Martens)(ヒメシラトリガイ)、Macoma tokyoensis Makiyama(ゴイサギガイ)、Macoma sectior Oyama(サギガイ)、Macoma praetexta(V.Martens)(オオモモノハナガイ)がリストアップされている。しかし、各種毎の形態の変異を考慮した上で、再度分類学的に検討する必要があるように思われる。

 

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(3)Portolandia(Portolandella) watasei (Kanehara)

         「ワタセベッコウキララガイ」

 合弁のものが1個体、左殻1個体が得られた。殻は横長の楕円形で多少膨らみがあり、前後端では狭く両側の間が開く。殻頂はやや前に寄る。前背縁はわずかに丸いが、後背縁は殻頂の近く以外はほとんど直線状。後端はやや切断状。殻表には細かな成長脈があるが、ほとんど平滑。腹縁は丸い。本種は北海道から九州までの漸新統~下部中新統から産出報告がある。【図版3-a・b】

 

(4)Yoldia(Orthoyoldia)sajitattaria Yokoyama「ユナガソデガイ」【図版2】

 右殻1個体と左殻1個体(転石)が得られた。殻は横長の卵形で扁平。殻頂は低く殻のほぼ中央に位置する。前縁は丸く、後背縁はわずかにへこみ、後端は上方へやや反っている。殻頂よりやや反った後端へ稜角が走り、細長の楯面がはっきりとている。殻表は平滑で弱い成長脈がある。本種は中新世初期の水野谷層(常磐)、五日市層(東京都)、赤平層(埼玉県)、常室層(北海道)などからの報告がある。

 

(5)Turritella fortilirata chikubetsuensis Kotaka「キリガイダマシ」【図版6】

 1個体が得られた。殻は高い円錐形。各螺層は直線状で膨らみは弱い。殻表面は強くて平坦な3本の螺肋とその上のやや弱い2本の螺肋で刻まれる。成長線は深く湾入する。
南佐久郡誌の図版(P1.11,fig.9)に掲載された Turritella tokunagai Yokoyama(トクナガキリガイダマシ)は各螺層の膨らみが強く、殻表面は3本の強い螺肋のみで刻まれていることで、本種と区別される。佐久市誌自然編にリストアップされ、北部日本の鮮新世から報告されているTurritella nipponica Yokoyama(オオエゾキリガイダマシ)は、殻表が太い螺肋とその上の幾分細い2本の螺肋で刻まれることで、本種と区別される。 本種は中新世初期の滝の上層(北海道)から報告がある。


(6)Euspira meisensis Makiyama 「メイセンタマガイ」【図版7】

 2個体が得られた。殻は球形で殻表面は平滑。体層は大きくよく膨れる。殻口は卵円形。へそ穴(臍孔)は細長く開き深い。本種は日本各地の中新統から報告がある。

 

(7)Acirsa watanabei Kanehara 「オホーツクイトカケガイ」【図版8・9】

 22個体が得られた。殻は小さく、殻高は、最大23mm。螺塔は高く円錐形。螺層は8以上で、各螺層の膨らみは弱いが、明確な縫合線で分けられる。殻表は、多くの顕著な縦肋と、低くて細かな螺肋によって刻まれる。体層の殻口付近は、縦肋が弱まり、螺肋と交わって顆粒状になっている。本種は中新世初期の水野谷層(常磐)から報告がある。

 

 【編集後記】

【 閑 話 】

 私も、学生時代に蝦夷層群(北海道の白亜系)の転石で見つけたアンモナイトの化石をクリーニングしたことがあります。堆積岩の薄片を作る傍ら、メノウで置換されて、あまりに綺麗なので「置物用」にいたずらした程度ですが、とても根気の要る作業でした。一方、産出してきた肝心な化石は、専門家に依頼して、言われるままに記載していたので、あまり化石には興味が湧きませんでした。

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メノウで置換されたアンモナイト化石(インターネットから)

 その意味でも、化石研究は緻密さと粘り強さが要求されます。また、採集した後の化石の整理・保存なども、大変そうです。さらに、化石の鑑定は、専門家でないと信憑性が薄いのが、私には好きになれなかった理由かもしれません。
 だから、草花や木々についての興味はあって、『綺麗だなあ、不思議だなあ』と愛ではしますが、植物分類となると苦手です。私は、どちらかと言うと、地学分野では堆積構造や構造発達史などに興味を覚えます。ただし、せいぜい地学同好家の範囲の話ですが・・。

 ところで、最近、農作業の前に「はてなブロク」を挙げる時間がなくなってきて、少々大変です。これから、畑に出かけます。 (おとんとろ)