北海道での青春

紀行文を載せる予定

燕・三題(皐月の句)

 ① 古巣より 新居が好きな 里燕(さとつばめ)
 ② 烏(とり)の尾に スクランブルや 親燕
 ③ 居座りし すずめ抗議へ 飛燕群(ひえんぐん)

 

 初句会へ提出する俳句を考えていたら、佐久市役所から「燕の巣調査」の葉書が届いた。

 我が家の二階ベランダの軒には、昨年、巣作りを途中放棄した燕の巣がある。ここに、入居を考えている燕がいるようだ。干し物をするにも気遣って、燕の動向を見守った。完成したら、調査報告するつもりだったが、駄目だった。

 しかし、ひと組は、この冬に新築したばかりのMH家の玄関に、もうひと組は、南隣のMM家の二階換気口の上に巣を作った。このふた組の燕たちを主人公に、俳句にしてみた。

 【俳句-①】は、築97年の我が家を捨てて、新築家屋を選んで巣作りをした里燕への皮肉を込めて、詠んだ。燕も、やはり古い家より、子どもがいて若い家族の新しい家を好むのかなあと思った。

 同時に私の驚きと感動の一部は、新居の玄関が、燕の糞で汚されても動じないMHさんの寛大さだった。(1年後に、撤去したようだ。)


【俳句-②】は、子育て中の燕の巣に、カラス(烏)が、ちょっかいを出した光景を私が目撃していて、その様子を詠んだ。日本のEEZに浸入した不審機に、自衛隊の戦闘機がスクランブルをかけるかのように、カラスの尾羽を親燕が共同して突いて、追い払おうとしていた。その真剣さと健気さに感動した。

 ちなみに、烏(カラス)としてしまうと字余りなので、「とり」と読ませている。

 

               *   *   *

 

 良く目にする燕は、「スズメ目・ツバメ科・ツバメ属・Hirundo rustica種」で、日本と東南アジアを行き来する渡り鳥(夏鳥)である。佐久地方の晩春から初夏へと変わる時季を知らせてくれる。鶯に春告鳥の異名があるのなら、燕を「夏告鳥」としてもいい。ただ、来訪には気づくが、燕が居なくなったのは気づかないでいて、後から振り返ることの方が多い。

 

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燕(ツバメ)の巣を、雀(スズメ)が占領した

 

 ところで、【俳句-③】は、私の体験した燕の驚くべき習性に感動した事件を17文字にして、ようやく詠んだ。句会の仲間は、始め内容がわからず、私の説明を聞いた後、皆から修正してもらって、この程度の表現に落ち着いた。それでも状況説明をしないと、わからないと思う。

 私が、ある小学校で教頭をしていた5月の朝のこと、職員室へ3年生のN君が急を知らせに来た。『燕の巣に雀が、燕が雀で、燕が何羽も来ていて大変です』と。

 興奮気味で要領を得ない説明なので、何のことか見当も付かない。二階教室のベランダへ急行した。児童の怪我や事故という大変さではないので一安心したが、とにかく初めて見た燕の異様な光景だった。  

 その数、およそ40羽の燕たちが、直径50mほどの円周上の空中で、ホバリング状態で列を作って並んでいる。先頭は、ベランダのコンクリート壁に作られた燕の巣である。この巣に向かって、例の早口で「ペチャクチャ」鳥語で喋る。巣の中には、でかい顔の雀が見える。『出て行け!』と燕が抗議しているようだ。燕は一通り捲し立てた後、巣を離れて列の最後尾に移動する。そして、次に先頭となった燕も、同様な行動を繰り返している。一匹の燕の抗議行動は十数秒だが、交代して次々と取り組むので、20分間ぐらいは続いたと思う。その間、雀は耐えたのか、それとも無視していたのか、巣を立ち退くことはなかった。

 私は、擬人法による解釈が危険だとは承知の上で、燕の集団抗議行動が、まるで「暴力団組事務所の立ち退きを要求する為に集まった市民団体のデモ行動」のように思えた。但し、全員でシュプレッヒ・コールをしないで、一羽ずつ鳥語で抗議するのは、偉い。しかし、村中の燕が集まったような多さを見れば、何らかの情報伝達機能があるのか、そして一列に並んで待機できる飛行能力の不思議さなど、燕の社会性や習性への疑問も湧いてきた。

 ちなみに、校舎の他の燕の巣を乗っ取った雀に対する抗議は目撃しなかったが、一週間ほどして居なくなったケースもあった。

 鳥類観察の大変さは友から聞いて知っているので、私は挑戦するつもりは無いが、鳥類の社会行動には興味があり、いろいろ知りたいことがある分野だと思う。

 

 【編集後記】

 俳句会への初参加は、四年前になる。特に、【俳句―③】を作った時は、その驚きと感動を伝えると同時に、情景・状況を説明したいのだが、俳句という「5+7+5」文字では、難しいことを思い知らされた。

 『俳句は、スケッチのつもりで、ある場面を切りとれば』と、そして、『説明を聞かないとわからないようなのは、無理よ』と句会の仲間から指摘された。この台詞は、この後、何回も聞くことになります。

 ところで、本文に掲載した写真「スズメのお風呂」は、スズメが砂の多い場所で、身体をくねらせたり、羽ばたいたりして、虫や汚れを落とす所、すなわち、砂浴び場のお風呂のようです。ここでは、初めてスズメの交尾する光景も目撃しました。