① 思い秘め 少女にも似て 桔梗さす
② 虫の音に 寝息合わせて 夢枕
③ 大根蒔く 巡る季節に 思い馳せ
「お盆が過ぎると朝晩は涼しく過ごしやすくなり」等と、時候の挨拶に書いたものだが、近年は地球温暖化のせいなのか、佐久地方でも、立秋の後の残暑は、しっかりと残っている。季語では初秋の内容を選び、俳句を練った。
【俳句-①】は、生け花の素材を捜していて、桔梗を選んだら、ふとある女性のことを思い出し、静かに偲びながら剣山に桔梗(ききょう)を刺したことを詠んだ。
ある女性とは、偶然にも生年月日が私と同じ、中学校の同級生Mのことである。中卒で就職した後のことは、何も知らない。中2生の時、『どうして私のこと、見てくれないの?』と、Mから秘めた思いを告白されたことがある。
同級会幹事になって、そのMから返信葉書をもらった。
『父も老いて帰省して顔を見たいが・・』と不参加の便りだったが、綺麗で伸びやかなペン習字のような自筆の葉書に、今度は私の方が、秘めた思いを抱いてしまった。
私たちの同級会は、卒業以来、やらなかった年を数えるほど、毎年実施している。
若かりし最盛期は、30名以上集まり、社会も華やかな時代だったので、二次会・三次会は、明け方になることもあった。最近は45名中、十数名が母体となり、少しずつ増減があるが、続いている。
Mは、毎年、返信を寄せてくれる。現住所の沖縄から、信州への望郷の思いを募らせ、葉書を書いてくれているのだろう。
そんなMの姿を想像すると、素朴で、律儀さと控えめなイメージのある桔梗の姿と重なる。元気かい、俺も元気にやるよ。
【俳句-②】は、寝付けなくて困ることはないが、自分の呼吸を意識することがあり、それが虫の音のリズムと重なり、知らず眠りに就いていた体験を詠んだ。
秋に鳴く虫で私の知っているのは、コオロギとウマオイぐらいである。今晩の虫の音は、「ウマオイ」で、子供の頃からの地方での呼び名では、「スイッチョ(ン)」である。
調べてみてわかったが、「ハヤシノウマオイ」と「ハタケノウマオイ」という同類がいる。鳴き声が少し違い「シッチョン・シッチョン」と短く鳴く。こちらが、「畑」の称号が付く。
私の聞いたのは「スイーッチョン・スイーッチョン」と、音を伸ばす部分があり、間を空けて鳴くので、「林」の方のウマオイ(馬追い)のようだ。
ところで、音の出る仕組みは、2枚の前羽を擦り合わせた時の摩擦振動音である。すりこ木とすり鉢で、音がでるのと似ている。目的は、雄が雌を呼ぶ求愛行動のひとつだ。そんな見方をすると、盛りのついた恋猫(春の季語)の声は、嫌らしく聞こえるが、虫たちのそれは、初恋のようにも聞こえてくる。
【俳句-③】は、文字通り、大根の種子を蒔いていると、季節が一巡したことへの感慨や、過去の農作業場面が浮かび上がり、懐古に耽る気持ちを詠んだ。
「プレバト俳句(TBSテレビ)」の夏井いつき先生が、『思い馳せって、それが何かを表現しなくちゃ』と酷評するのはわかるが、絞れなかった。
退職後の駆け出し農業の頃、大根の種を数種類買ってきて、お墓参り(8/1)が過ぎると、すぐに取りかかり、毎週蒔いた。しかし、お盆過ぎまで待って1種類を丁寧に蒔けば良いことを悟るようになった。馳せる思いの最大は、これかもしれない。
ただ、素人農業も、経験や勘に頼らず、少なくとも気象データーや収量記録の積み重ねをしていかなくてはならないかもしれないと思う。
【編集後記】
ちょうど今、「俳句―③」の心境を迎えようとしている。大根の種子をいつ蒔こうかと思案しつつ、状況を見守っているからだ。
例年であると、お盆明けに「大根の種蒔き」をして、その一週間後あたりで「白菜の種蒔き」をする。
今シーズンは、梅雨明けが極めて遅く、日照時間が少なくて夏野菜が育たなかった。ところが、8月になってから日照り続きで、毎日、水遣りとなった。その結果、10日から半月おくれで、夏野菜の収穫ピークがきている。毎食、野菜づくしである。
残暑も厳しいので、少しぐらい遅れたところで、間に合いそうである。さらに、畑と隣接する墓地の大檜(ひのき)の伐採作業が終わるのを待っているという事情もある。
業者さんからは、8月下旬とだけ予定を聞いているが、そろそろ月末である。
(cf:檜は、枝振りも良くて頑丈そうだが、少し傾いてきている。台風などの強風で倒れる可能性がある。先の2019年・台風15号の強風被害や、台風19号の豪雨・土砂崩れを目の辺りにすると、「倒れたら倒れた時だ」という発想から、世相や人々は、先手を打っておこうという予防策が採られるようになってきたと感じています。)