北海道での青春

紀行文を載せる予定

佐久の地質調査物語-132

雨川水系の沢

8. 滝ヶ沢林道の沢の調査から

 森林地図によると、「滝ヶ沢や地獄沢」は、沢を含む森林区分に付けられた名称です。また、「仙ヶ沢と判行沢」も、同様な理由で森林区分の名称です。だから、水系としての沢を表していないので、私たちが使用するには不便です。そこで、地獄沢方面まで延びている林道名を採用して、「滝ヶ沢林道の沢」と呼ぶことにしました。また、標高950m二股からの左股沢は、「仙ヶ沢」と呼ぶことにしました。
 そうすると、「日本の海から一番遠い地点」の碑は、滝ヶ沢林道の沢の支流(左股沢)・仙ヶ沢の最上流部にあると表現すれば良いことになります。(下図【滝ヶ沢林道~仙ヶ沢のルートマップ】を参照)

f:id:otontoro:20210702100335j:plain

「滝ヶ沢林道」の沢のルート・マップ(仙ヶ沢との兼用)

 平成16年梅雨入り前の6月5日、不老温泉の橋の下から雨川本流に入り、合流点から「滝ヶ沢林道の沢」を調査しました。沢の標高1000m付近は、両岸が流水で激しく削られ渓谷となっていました。全体的に、玢岩による熱変質の影響を強く受けていました

 不老温泉(ふろう)の橋の下(【図-①】)では、熱変質した灰白色泥岩~細粒砂岩で、【図-②】では、閃緑岩(diorite)が見られました。
 合流点から沢の中を進み、標高935m付近(【図-③】)では、熱変質した灰白色泥岩層が25mに渡り分布していました。すぐ上流に、閃緑岩(幅25m)が見られました。
 標高940m付近(【図-④】)では、熱変質した灰白色泥岩(N50°E・20°NW)が2つの小さな滝を形成していて、その間に「十文字」を成すコングロ・ダイクが認められました。

 走向に沿うもの(幅30~40cm×長さ8m)と、直交するもの(40cm×6m)が交わっていました。滝の下流2.5mにもコングロ・ダイク(30cm×2.5m)がありました。

 標高950m付近に堰堤(高さ3.5m)があり、その上流へ水平距離15mで、仙ヶ沢に分かれる二股です。共に熱変質した灰白色泥岩(主)に、灰色砂岩(従)が入る砂泥互層が見られました。
 標高960m付近(【図-⑤】)では、熱変質した灰色砂岩層の中に、2つのコングロ・ダイク(東側:15cm×2.5m・N60°W・垂直/西側:5cm×1m)が見られました。
 林道の橋、標高965m付近(【図-⑥】)では、熱変質しているが中粒と粗粒砂岩の層理面が顕著で、走向・傾斜はN50°E・20~30°NWでした。ここで、林道は2つに分かれ、ひとつは本流から地獄沢方面へ、もうひとつは、仙ヶ沢の「日本で海岸線から一番遠い地点」の碑まで延びています。
 滝ヶ沢との合流点、標高975m付近(【図-⑦】)では、熱変質の影響は少なく、暗灰色細粒砂岩層や砂泥互層、黒色泥岩層が見られました。
 標高985m付近(【図-⑧】)では、暗灰色細粒砂岩~泥岩と灰色中粒~粗粒砂岩層の互層がみられ、N40°W・5~20°NEでした。風化すると黄土色となり、累帯構造に似た縞模様が現れるタイプの凝灰質な砂岩です。(岩相から、内山層の上部層のように思いました。)
 東に振れた沢が南に戻り始める標高990m付近(【図-⑨】)から、玢岩(porphyrite)が出始めました。

f:id:otontoro:20210702102554j:plain

クランク状になった渓谷

f:id:otontoro:20210702102940j:plain

クランクの中間にある目視できる断層

 そして、標高1000m付近(【図-⑩】)付近では渓谷となり、周囲の熱変質した灰色細粒砂岩の中に、玢岩(porphyrite)の節理(優勢な方向:N50°E・70°SE)が見られました。沢がクランク状態に湾曲していました。【上の写真】

 中間部に、断層と思われる構造(N70°W・垂直)が認められました。【上の写真】

(参考:こちらのクランクは規模は小規模ですが、矢沢の標高1000m付近にある第1クランク~第3クランクを思い出しました。)
 渓谷の終わる標高1010m付近(【図-⑪】)では、熱変質した砂泥互層で、N5°W・10°Eでした。

 そのすぐ上流、標高1015m二股では、左股と右股にわたり、【写真】のような熱変質した泥岩層(主)と砂岩層(わずかに挟まる)の互層が見られました。ほぼNSの走向で、緩やかにE~SEに傾斜しています。傾斜がいくぶん南東傾向であるので、ケスタ地形のように、段差のある小さな滝状地形がしばらく続きました。

f:id:otontoro:20210702103241j:plain

標高1015m二股の上、調査は左股へと進む

 また、分岐付近の右股沢で、【下の写真】のような「奇妙な石灰質物質」を見つけました。一見、サンドパイプ(生痕化石)のようですが、材質は石灰質です。色と形態から、やや大型動物の脊椎(背骨)かと期待しましたが、どうも違い、地層中に溶けていた石灰成分が作り出した造形のようです。

f:id:otontoro:20210702103646j:plain

奇妙な石灰質物質でできた構造

 

 二股から左股を進み、標高1040m(【図-⑫】)では、粘板岩が見られ、黄鉄鉱が晶出していました。なぜ、ここだけ粘板岩(熱変成)があるのか不思議です。
 短い区間に小さな滝(NS・10°E)が連続します。標高1050m【図-⑬】)では、熱変質した灰白色の泥~細粒砂岩層があり、三段の滑滝を形成していました。N30~40°W・10°NEでした。
 標高1060m付近(【図-⑭】)では、熱変質した灰色細粒砂岩層の中に、コングロ・ダイク(幅3~5cm×長さ2m・N20°E・垂直)が認められました。

f:id:otontoro:20210702104101j:plain

地獄の「お釜滝」 【図-⑮】地点・林道から

 標高1070~1080m付近(【図-⑮】)では、【上の写真】のような落差10mほどの滝があり、林道の上から撮影しました。滝壺が、きれいな円形をしていて、まさに「地獄のお釜」のようなので、お釜滝と名付けました。滝の下は、熱変質した灰色細粒砂岩層でしたが、造瀑層は、観察できませんでした。滝の上(【図-⑯】)では、新鮮な玢岩が見られたので、玢岩か熱変質した堅い泥岩層だと思われます。

 滝ヶ沢林道が、沢に沿っているので、林道と沢との間を行き来して観察しましたが、「お釜滝」は、登攀できませんでした。

 地図の「地獄沢」と合流する二股付近の林道に懸かる橋、標高1095m付近(【図-⑰】)では、風化して黄土色になった中粒~細粒砂岩層が見られました。熱変質したものが風化したのか、それとも熱変質の影響が少なかったのか、いずれにしろ、周囲に比べて沢がなだらかになる場所なので、風化・浸食に弱い岩質だと思われます。

 二股からは、左股を進みました。標高1110m付近(【図-⑱】)から、玢岩露頭が随所に認められ、標高1120~1130mの、いずれも沢との合流点付近で見られました。
 標高1135m二股の少し下流(【図-⑲】)では、熱変質した帯青灰色~暗灰色の細粒砂岩層が見られました。確認できた最後の露頭です。

しばらく沢を詰め、標高1150m二股(【図-⑳】)を確認して、下山しました。

 

【編集後記】

 地質構造的な話題は、次回の「仙ヶ沢の調査から」で、触れることにします。

「地獄沢」という奇妙な名前が出てきましたが、沢全体の名称ではありません。無名な沢なので、私たちが便宜上「滝ヶ沢林道」の沢と名付けた沢の支流に、「地獄沢」があります。残念ながら、支流には入っていませんが、地形図で見る限りは、特別な地形の沢(枝沢)とは思われません。しかし、何かがあるのかもしれません。

            *   *   *

 ところで、本文中に取り上げる話題がなかったので、以下のような石の芸術を紹介します。

 自然の中には、不思議な造形美があって感動します。

【アフリカ大陸】は、滝ヶ沢林道の沢・標高1030m付近にあった熱変質した灰白色泥岩の転石です。どこにでもありそうですが、なぜか感動しました。

f:id:otontoro:20210702105746j:plain

アフリカ大陸

 【龍】は、谷川本流の標高920mの河岸に転がっていた木の根です。横に延びた根が角のようで、こんな偶然はないだろうと、写真に納めました。お昼を食べた場所の近くでした。

f:id:otontoro:20210702110100j:plain

龍の頭部

 【河童】は、香坂川上流第3沢の標高1080m付近の二股に転がっていた転石のひとつです。尾根にあった志賀溶結凝灰岩が落下したもので、3m以上あります。
 髪の毛に見える部分は、落葉が載っています。輪郭は割れ目にできた陰です。ちょうど午後の日差しと、見る角度が重要でした。

 

 

f:id:otontoro:20210702110555j:plain

河童の頭


 趣味という訳ではありませんが、自然の美しく雄大な風景とは、また一味違ったおもしろさを感じて、気に留めた光景を写真に納めています。特集したことはないので、いくつ紹介できるかわかりませんが、地質に関する話題が見つからない時には、載せたいと思います。

 ところで、梅雨もいよいよ本格的になってきました。日本付近の天気図の範囲に、小笠原(北太平洋)高気圧が、オホーツク海高気圧と、南と北で対立するように気圧配列しています。(7月2日の21時の予想天気図)その間で、梅雨(停滞)前線が、活発に活動中です。今日は、朝から雨降りなので、家でゆったりとしています。(おとんとろ)