北海道での青春

紀行文を載せる予定

北国の早春(如月の句)

  ① 陽炎の 黒き土の香 時季(とき)を知り

 ② 岩盤(いわ)削る 白樺芽吹き 沢の音

 ③ 木の根開(あ)く 光輝け 別れ雪(ザラメ雪)

 

 2月下旬には、「区民の集い」という地域公民館主催の文化祭があり、私たちは俳句を出品する。その前に句会を設け、俳画の用意をすることになった。

 私は、北海道の十勝平野や日高の山々を歩いて印象的だった早春の光景を、俳句にしてみようと思った。

 

 【俳句-①】は、早春の陽光を浴びて陽炎(かげろう)の立ちのぼる十勝平野・畑作地帯の光景を詠んだ。春の日高山脈、トヨニ岳~楽古岳山行(5泊6日)で、帯広から広尾線(当時の国鉄線)に乗り、豊似駅で下りた。農家のトラックで、上豊似の林道終点まで送ってもらったが、私は荷台から広大な大地を眺めていた。

 畑を仕切るカラマツの木々の芽吹きは始まっていた。列は他の並木と交差しながら続き、春もやの中に消えていく。冬ぶちの畑からは陽炎が上がり、代わりに、陽光が黒土に吸い込まれていくかのように錯覚する。

 黒土には、体臭のような独特な匂いがある。その香から、時季を知る大地という生き物かと、妙な感触を覚えた。

 

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 【俳句-②】は、雪渓の豊似川上流に分け入り、にぎやかな春の沢に出合った時の感慨である。

 残雪の沢筋を歩いていると、雑然とした汚れも目立つ。雪崩跡の茶色い土汚れ、冬の嵐で折れた枝の散乱、ノウサギエゾシカの足跡と、所々に残る糞の塊。

 雪渓の下は沢水が流れている。残雪の間から岩や中州が現れるようなら、雪渓は危険で歩けない。春の沢は、雪で包み隠されていた生物も無生物も、一斉に這いだしてくるようだ。

 テント設営をした中州では、白い幹と焦げ茶の枝が対照的な白樺の淡い新緑の葉が蝶の群れのように羽ばたいていた。雪解けの沢水が、岩盤を削り、石を転がす音が気になって、なかなか寝付かれなかった。

 

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沢の残雪と「リュウキンカ

 

 【俳句-③】は、春の森林地帯を歩くと、木の根元の雪が解けて穴が開いている光景に出逢い、春の訪れを知ることになる情景を詠んだ。

 枝葉に保護され根元の雪が少ないことも一因だが、生木の発する熱や地熱の影響で、春の訪れと共に根雪が先に解けることを「木の根が開く」と言う。これ自体が季語のような響きがある。(しかし、季語としては登録されていないようだ。)
 特に、ダケカンバの木の根元は、大きな穴ができていて、土が見えていることがある。穴の周囲の雪は、寒暖差からザラメ状の雪となり、純白さは失うが、春の光に宝石ように輝く。冬との別れを惜しみ、別れ雪とした。

 ※ ザラメ(粗目)雪も捨てがたいので、正式ではないが、かっこを付けて併記してみた。

 余談だが、この春の日高では、ピッケルは使用したが、アイゼンは持参しただけである。同時に心配したのは、沢の徒渉である。対岸にいつ渡るか、スノーブリッジは安全かである。雪解けの状況で、早めに判断しなければいけなかった。幸運にも、雪解けの沢水に入ることはなかった。

 

【編集後記】

 個人的には、「俳句―①」が気に入っている。ただし、季語については悩んだ。と言うのも、類似の季語に、『春の土/土恋し/土現る/土匂ふ』というものがある。この内、『土匂ふ(う)』と『黒き土の香』は、かなり似ている。

 ただ、北海道十勝の腐食土の黒色も、生き物の体臭のような香りも、どうしても入れたくて、創作してみた。

 ところで、今はもう45年以上も昔のことになるが、私たちが、日高山行で登頂した野塚岳の直下を、トンネルが開通(平成2年)し、日高地方と十勝地方を結んでいると言う。機会があれば、乗用車という方法になるかも知れないが、トンネルを抜けて、十勝の穀倉地帯を訪れてみたいものである。